マチンガのノート

読書、映画の感想など  

「恐怖の権力―<アブジェクシオン>試論」 ジュリア・クリステヴァ その3

2015-05-27 23:50:48 | 日記
マイケル・バリントの「治療論から見た退行」などを読むと
どの様に安心と満足を与えて、進行に向かう処に持っていくか、
という感じだったが、こちらは、どの様に主体が起ちあがるかを
色々と書いている。フロイトにせよ誰にせよ、ギリシャ神話を例に
取り上げるが、ヨーロッパ文明の起源だからだろう。
主体が起ちあがり、象徴秩序に入って行くと、それに伴い
穢れやタブーが生じる。著者もギリシャ神話など、様々な物を取り上げ
そのことを解説していく。
ユング派の老松克博氏も、著書の「人格系と発達系」の中で、
出版物やネットでの発達障害に関する情報の質の貧しさについて
触れている。
何も無かった処に何かが生じてくる事を、言語を使って示そうということ自体の
困難性だろう。

「恐怖の権力―<アブジェクシオン>試論」 ジュリア・クリステヴァ その2

2015-05-25 01:47:40 | 日記
ソ連の衛星国出身者にとっては、自国の共産党政府や、
ソ連が様々な媒体で主張していることなど、どうせ実体のない嘘ばかりで、
さらに武力を背景に自国を支配しているソ連の主張を
嘘と知りつつ庇っている自国政府のもと、その様なことを公的に指摘しようとすると、
適当に罪を押し付けられ投獄される、事故に見せかけ抹殺される、
人知れずソ連の辺境に送られて二度と戻ってこれない、などは
普通に予測していただろう。
さらに西側に来ても、当時のソ連や社会主義がいいと言う人の多い、
無知で無邪気で傲慢な西側知識人と何かを話しても、
何を話せば、どのように伝わり、相手がどう受け取るかを
常に考えて話したり、書いたりせざるを得なかっただろう。
その様な状況の下、自分を持つ、保つ、というのは、
西側の人間と違って、とても困難だっただろう。

「恐怖の権力―<アブジェクシオン>試論」 ジュリア・クリステヴァ その1

2015-05-25 00:22:08 | 日記
大阪府立大学の心理臨床の博士論文でこれについて扱ったものの概略をネットで
見たので、本書を読み始めた。
ジュリア・クリステヴァはブルガリアで1941年に産まれたとのことだが、当時は戦争中で
戦後は混乱期があり、そしてソ連軍が来て居座り、衛星国にされた国なので、
米国施政下の沖縄よりはるかに、ソ連、ソ連軍に不当に扱われたことは
想像に難くない。
ソ連兵がブルガリア国民に様々な犯罪行為を行って、それを仮にブルガリア人が
訴え出たとしても、犯罪事件として取り上げてすらもらえない事は、
相当多かっただろう。
ソ連国内ですら、1932年、33年の飢饉の際、ウクライナは、食料を取り上げられ、
250万~1450万人が死亡したのだから、衛星国であるブルガリアは
いつ何をされるか判らないという状況だったのではないだろうか。
その様な、圧倒的に無力で不利な状況下の国からフランスへ行き、様々なものを
学んだのだろう。
日本には、豊かで平和なスイスの臨床家などはよく紹介されてきたが、
ソ連の衛星国で貧しい国の出身者は、考える基盤自体が違うのだろう。



サブプライム金融危機時の米政府の対応について

2015-05-18 00:44:24 | 日記
サブプライム金融危機のとき、米政府は金融安定化ということで
金融機関に巨額の出費をした。
金融についての素人からすると、金融機関に出すよりも、
社会保障と福祉に出費した方が、消費の持ち直し、治安の改善、
そして帰還兵への医療と各種サポートが充実して、
はるかに景気改善、社会の安定に役立ったのではないのかと思う。

「治療論からみた退行」 マイケル・バリント

2015-05-06 00:32:54 | 日記
20年以上前に初めて読んだのだが、エディプス期以前の
心の初期的状態について描かれていて、その様な所にいる人が
物事をどの様に受け止め、どの様に感じるのかが、描写されている。
そしてどの様に関われば、退行から転じて、前進するのかを
解説している。

訳された頃は、山中康裕医師が、東京大学出版会の「分裂病の精神病理」
シリーズの中で、境界例の事例の事で、これを読んでいればもっとうまく治療できたのに、
という事で取り上げていた。
現在ならば、境界例のみならず、発達障害の治療にも役立つのだろう。

何人かの精神科医、精神医療関係者からこの本について
読んでも解らないとの感想を聞いた。
この本を読んで解るかどうかは、訳者の中井久夫医師が時々使う、
自身の「心の産毛」に本人が自覚的かどうかが大きいのだろう。
精神科医からこの本を読んでも解らないという感想が出るというのは、
今の精神医学教育、医療体制を、大幅に改善する必要があるのだろう。