本書において著者は、戦後に劇的に増加した様々な精神疾患や、人格障害、発達障害、
免疫に関連するさまざまな疾患について、愛着の未成立、不安定さが
根っこにあるという仮説を展開しています。
成育歴や遺伝的素因が組み合わさったことからくる愛着の未成立、不安定さが原因で
オキシトシンに関連する愛着関係や免疫システムを十分に発達させられないことが、
各種の精神的、身体的不調の原因の大きな原因だろうという事が著者の主張です。
新書のため、一般的な読者を読み手として想定して書かれた物かと思い読んみましたが、
参考文献のほとんどが、海外のものなので、医師も読者として想定しているようです。
多くの医師は、安定した家庭で育ち、落ち着いて勉強する環境に恵まれているため、
著者の勤務していた医療少年院の少年たちのような家庭や境遇について、全く知らないことが、
様々な疾患や症状を脳機能や遺伝子に還元して考える原因でしょう。
しかしながら、本書では愛着関係を特定の相手と結ぶことを予防や治療の基礎としているため、
現代社会では実践するのが困難そうです。
家庭にいて、愛着関係を成立させやすいのは、産みの母親ということは、
女性の社会進出や、男女の平等に逆行するため、リベラルな人の反発を強く受けそうです。
さらに、保守派のいう、母親は家庭にいるほうがいい、という主張とも通じるところがあるので、
保守派が嫌いな人が反発するという事が、問題の解決を難しくしそうです。
愛着に関する問題のみならず、社会の価値観や在り方も問う視野の広い内容の一冊でした。