マチンガのノート

読書、映画の感想など  

〈自己〉と〈他者〉の心理療法 白井聖子 金剛出版 感想

2024-05-28 22:06:33 | 日記

長年にわたり精神科病院に勤めている著者が、著名な現象学的精神病理学者である木村敏氏の、

〈自己〉〈他者〉〈あいだ〉などの考察を参考にしながら臨床を続けたことをまとめた一冊です。

本書はもともと名古屋大学大学院教育発達科学研究所に学位論文として提出したもので、

それに大幅に加筆修正したとのことです。

木村敏氏の著作というと、それなりに知識のある人向けに書かれていて、参照されるものも

哲学者の著作が多いので、こちらとしてはほとんど読んだことがありませんでした。

著者は本書の中で木村敏氏の自己論や治療観も紹介し、そこから図解しながら

治療に関しても解説しているので、木村敏氏について詳しくなくてもそれなりに解る

ようになっています。

事例に関して『主語的なこと・述語的なこと』という表現で図解しながら解説しているので、

解りやすくなっていました。

京大の臨床心理のほうでは、発達障害におけるクライアント側の主体のなさについて書いていますが、

本書では治療関係における治療者の主体の問題に関しても考察しています。

そのあたりはユング派分析家の故・織田尚生氏の『王権の心理学』などに書かれている

『変容的逆転移』を思い起こさせるところでした。

木村敏さんといえば統合失調症の治療に関して書かれたものが多いですが、著者によると

自閉症スペクトラムに関わるときにもそれらのものが役に立っているとのことです。

 

書店の店頭で見かけて面白そうなので読んでみました。

 


自立支援系などについて

2024-05-26 22:59:55 | 日記

昔から、不登校や引きこもりなど様々な子供や若年層を対象に、本人を預かり

何かスポーツをさせたり作業をさせるというものはありますが、

そのようなものは親が自分たちの気に食わない状態の子供をお金を払い他人に預けて、

そこの職員が親に代わり多くの場合かなり強引に色々とさせていますが、そのようなことをさせても、

本人が自ら何かをするだけの何らかの動機や能力を見つけ、自ら主体的に取り組むことにならなければ、

単に脅しや侮辱を用いて強引にさせるのみで、本人が成長し、社会の中で何かをすることには繋がることは

少なそうに思います。

他の国では見られないという就活スタイルの画一性を見ると、そちらの方に取り組んだほうが

色々と良くなりそうですが、ずっと変化が見られないところをみると、財界などは

公共のことには関心を持たずに居続けているように見えます。

長引く不景気と就職難が続いたので、教育や福祉関係の人達も、財界には文句が言いにくいのでしょう。


あじろ 赤松利市 双葉社 感想

2024-05-25 08:39:18 | 日記

「藻屑蟹」「救い難き人」などの赤松利市さんの最新作です。

【あらすじ】

新橋の居酒屋「あじろ」の常連客である真由美が来店しなくなり、それとともにフリーライターの

和歌子のもとに真由美が何をしているについての投書が寄せられます。

「あじろ」の店主たちが真由美のことを心配していることもあり、和歌子は彼女のことを調べ始めるのでした。

【感想】

主人公の和歌子の心の動きがなにかと丁寧に描かれている小説です。

店主たち周囲は人情味のある人達ですが、結局、真由美の行動の動機があまり解らないのが在りそうな話でした。

ある人のことを理解しようとして、その人個人のことをいくら調べても解ることは少ないのだと思います。

昔から様々な生育歴のひとは多く居たのでしょうが、メディアで取り上げられる典型的な生育歴以外については、

ほとんどの人は想像も理解もできないのでしょう。

福祉や医療など援助活動をする多くの現場では、公私混同は避けるようにしていますが、

この小説では公私混同の果てに暴走する人物が描かれるので、いかに特定の個人に支援や

援助活動が依存しないようにする必要があるのかが解ります。

この小説は赤松氏が以前に書かれた『ボダ子』を別の角度から描いたものでもあると思いました。

 

 

『ボダ子』 赤松利市 | 新潮社

35歳で起業し、年商十億円を超える会社の社長となった大西浩平。だが、事業の成功の裏にあった家族を顧みない生活は、娘の境界性人格障害(ボーダー)の発症へとつながる。...

 

 


医師や心理士が社会学的調査をする必要性について。

2024-05-21 01:09:58 | 日記

医師や心理士の多くは、子供の頃からまともな親のもとで育ち、

多くは進学校に行き、大学に入るので、それ以外の世界は知らないだろう。

しかしながら患者やクライアントの大部分はそれ以外のコースを経てから、

なんらかの病気やメンタルヘルスの問題が生じるのだから、大学で知識を学んでも、

どのような経験が様々な問題に繋がるのかは理解できないだろう。

これからは医師や心理士も社会学的調査をして、どのような経験を経た結果が、

病やメンタルヘルスの原因となっているのかを調べなければ、有効な対応をすることは不可能だろう。