長年にわたり精神科病院に勤めている著者が、著名な現象学的精神病理学者である木村敏氏の、
〈自己〉〈他者〉〈あいだ〉などの考察を参考にしながら臨床を続けたことをまとめた一冊です。
本書はもともと名古屋大学大学院教育発達科学研究所に学位論文として提出したもので、
それに大幅に加筆修正したとのことです。
木村敏氏の著作というと、それなりに知識のある人向けに書かれていて、参照されるものも
哲学者の著作が多いので、こちらとしてはほとんど読んだことがありませんでした。
著者は本書の中で木村敏氏の自己論や治療観も紹介し、そこから図解しながら
治療に関しても解説しているので、木村敏氏について詳しくなくてもそれなりに解る
ようになっています。
事例に関して『主語的なこと・述語的なこと』という表現で図解しながら解説しているので、
解りやすくなっていました。
京大の臨床心理のほうでは、発達障害におけるクライアント側の主体のなさについて書いていますが、
本書では治療関係における治療者の主体の問題に関しても考察しています。
そのあたりはユング派分析家の故・織田尚生氏の『王権の心理学』などに書かれている
『変容的逆転移』を思い起こさせるところでした。
木村敏さんといえば統合失調症の治療に関して書かれたものが多いですが、著者によると
自閉症スペクトラムに関わるときにもそれらのものが役に立っているとのことです。
書店の店頭で見かけて面白そうなので読んでみました。