志賀原発 1号機廃炉へ踏み出せ
足元に活断層が存在する疑いがある。そんな原発は動かすわけにいかない。
北陸電力の志賀原発1号機(石川県志賀町)の原子炉建屋直下を走る断層について、「活断層の可能性が否定できない」とした原子力規制委員会の有識者会合の報告書が確定する見通しになった。規制基準は原子炉などの重要施設を、活断層の上につくることを認めていない。
「疑わしきはクロ」が大原則だ。北陸電力は1号機の廃炉へ踏み出すべきだ。
自社調査をもとに「活断層ではない」と主張する北陸電力は「合理的な判断とは言えない」と反発している。近くにある2号機の再稼働をすでに規制委に申請しており、その審査の場で反論を続ける構えだ。
地下の断層が将来活動する可能性があるか。専門家でも判断が難しい。志賀原発では、建設前の地層の図面から活断層の疑いが浮上したが、その場所は工事で現存しない。有識者会合は2回の現地調査のほか、周辺の地形や岩盤などを総合的に検討し、第三者の専門家の検証も経て、北陸電力の主張を退けた。
その判断は重い。
規制委に反論し続けるには、さらに調査費がいる。すでに北陸電力は2号機の規制基準適合に向けた対策工事を進め、費用は1500億~2千億円にのぼる見込みだ。再稼働が極めて困難になった1号機に金をつぎ込み続けることが、どこまで利用者の理解を得られるか。
志賀1、2号機は東京電力福島第一原発事故の直前から停止したままだ。だが、需給に大きな支障はなかった。北陸電力は事故後もほぼ黒字経営で、電気料金の水準は全国一低い。
北アルプスの水資源に恵まれた北陸電力は、発電量の4分の1を水力が占める。地の利を生かし、原発をもたぬ電力会社に生まれ変わる選択肢もある。
福島のような事故を二度と起こさないためには、危険度が高い原発から閉じていくのが早道だ。北陸電力には、ぜひ先鞭(せんべん)をつけてもらいたい。
志賀1号機の運転開始は93年で、国内では比較的新しい。廃炉は重い経営判断だろう。
ただ、円滑に廃炉を進めるため、国は今春、会計ルールを変えた。廃炉に伴う損失を10年間に分割して計上できるようになるなど、電力会社の負担は軽くなった。
来春の電力小売りの完全自由化で、電力会社の地域独占は崩れ、経営手腕がより厳しく問われる時代になる。そんな将来をにらんだ判断を期待したい。
今朝(11月29日)の朝日新聞の社説である。
弱小電力会社「北陸電力」ゆえ、そしてまた反対運動の力もいま一つ弱いゆえ、なかなか全国区の課題として捉えてもらえない志賀原発の活断層問題について、「全国紙」朝日新聞が社説でこのように取り上げてくれた意義は大きい。
原子力規制委員会有識者会合の結論によって廃炉が実現した原発は残念ながらいまだに一基もない。
志賀1号機がまさに科学者の真っ当な議論によって廃炉が実現する第1号となるならば、日本の原子力政策に与える影響は実に大きなものがある。
そういう意味での今日の社説の意義を認めたうえで、なぜ1号機だけ?という疑問点を指摘せざるをえない。
北陸電力は敷地内断層の調査中の昨年8月、2号機の新基準適合性審査の申請(再稼働申請)を原子力規制委員会に対しておこなった。さらに1号機についても再稼働申請を行う方針を機会あるごとに表明している。
今日の社説にもあるように、北陸電力の基本的なスタンスは敷地内断層(北電の表現では「シーム」)は活断層ではないので、新規制基準が求める安全対策工事が完了したら当然再稼働だ!ということになる。
もちろんそんなにうまくはいかないが、おそらく今後、敷地内断層の評価書がまとまり、原子力規制委員会での適合性審査においてその報告書が「重要な知見」として扱われても、「こんな新しい調査をやりました」「こんなデータが出てきました」など次々と規制委員会に揺さぶりをかけ、新規制基準の「落第」を避け続けることだろう。
その狙いは言うまでもなく原子力規制委員会が「規制」委員会から「原子力ムラ」への「寄生」委員会へと徐々に変質することを期待してのことである。
原子力「寄生」委員会は、科学的判断を放棄し政治的判断を優先する。原子炉直下に活断層があると有識者会合から指摘される1号機は国民からの批判を避けるためスケープゴートとして「落第」、だけど2号機は屁理屈をこねて再稼働への道を探るという方針があっても不思議ではない。
北電の方針は、2基の再稼働を満点としつつも、最悪2号機だけの再稼働でも及第点という方針ではないか。
そう考えたとき、今日の朝日の社説もなぜ2号機に廃炉に言及しないのか、その意図を詮索せざるをえない。
そもそも有識者会合がまとめた敷地内断層の報告書(案)は、
「S-2・S-6 についての検討(Ⅳ・2 章)から、S-2・S-6 は、現在の広域応力場によって、後期更新世以降に、左横ずれ成分を持つ西側隆起の逆断層として活動した可能性がある。この際に変位は地表に及んでおらず、S-2・S-6 周囲に撓曲変形を及ぼす伏在断層として活動した可能性があると判断する。」
としている。
つまり地表に活断層は現われていないが地下に活断層がある可能性があると判断しており、この結論については先般の他の専門家によるピアレビューでも覆らなかったのである。
S-2・S-6は断層は2号機の下、原子炉建屋ではないがタービン建屋の下を走る。
敷地内を活断層が走るだけでもとんでもない、沸騰水型のタービン建屋の真下を走るだけでもとんでもないと思うが、こには国の新規制基準に基づいても活断層の上に存在してはならない原子炉補機冷却系の配管が走っている。
原子炉補機冷却系は原子炉圧力容器内が危機的状況に陥ったとき、残留熱を逃がす最後の砦ともいうべき重要な設備で、活断層の上にあってはならないとされる重要設備なのである。
上の図から明らかなように2号機原子炉建屋からS-6をかわして海に通じるには、ぐるりと北側を大きく迂回する配管を新たに設置しなければならない(空中を通すなんて案はおそらく外部からの攻撃を考えればあり得ないだろう)。物理的には可能かもしれないが、新たなルートでの活断層調査や海底での新たな工事に要する経費や時間も含め、素人目にもハードルはかなり高いと思われる。
報道各紙も有識者会合の議論を踏まえ、1号機は廃炉、2号機も再稼働は「困難」としているのもこんな理由からかと思う。
これまでも何度か触れてきたが、北電は新規制基準の見直しによってS-2、S-6断層は地下にあるので影響はない、あるいは地上への影響は小さいという新たな屁理屈をこね、補機冷却系をそのままにしての再稼働を模索しているのではないか。
そもそも日本の原発の本家アメリカでは敷地内に断層があるだけでアウトである。
百歩譲っても原子炉のすぐそば、タービン建屋の直下に活断層なんてありえない!
原子力ムラでしか通じない「科学」を振りかざして抜け道を探ろうとする動きが途絶えることはないが、そもそも敷地のなかに活断層があるや否やなんて議論が48年前の計画浮上段階にあったならば、先祖伝来の土地を手放した地権者はおそらく一人もいなかったのではないか。
原子力防災も常識から大きくずれていると思うが(「なぜ原発のため、ふるさとを追われる訓練をする?」)、活断層問題も住民の常識からどんどんずれてきているように思う。
冒頭の朝日の社説は「1号機だけはあきらめて廃炉にしないと2号機は稼働できないぞ」という意味か。
いやそうではなく「まず1号機から廃炉に踏みだせ、次は2号機だ」という意味だと受け止めたいが、朝日のスタンスはいかに?
社説第2弾を是非とも期待したいところだ。
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