北野進の活動日記

志賀原発の廃炉に向けた取り組みや珠洲の情報、ときにはうちの庭の様子も紹介。

瀬戸内芸術祭を訪れて・・・住民の声

2016-11-06 | 活動報告
瀬戸内国際芸術祭2016の視察報告その3。

瀬戸内国際芸術祭は地域活性化に大きく貢献した芸術祭の成功例として語られる。
瀬戸内国際芸術愛2013報告書でも、地域活性化に役立った、少しは役立ったを合わせると76.4%と、多くの住民が肯定的な評価をしていることが紹介されている。
そこをもう少し掘り下げて住民の声を直接聴くことも今回の視察の目的の一つである。

豊島や女木島、男木島でいろんなきっかけを作りながら住民の皆さんの声を聴いてみる。
「たくさんの人ですねぇ。芸術祭やり始めて島がすごく変わったでしょう」といったふうに声をかけると、意外なことにあまり威勢のいい話が返って来ない。
その中のいくつかを紹介したい。

民宿・食堂経営のおかあさんは、お店の中に入るわけでもないのに無断駐車したり、トイレだけ貸してほしいと言ってきたり、後でお店寄りますって言って車停めて、近くの作品見たらそのまま行ってしまったり、マナーがねぇ・・・と愚痴が次から次と。

巡回バスの運転手さんはもっと辛辣。
大型バスの運転経験があるので、退職後、1回目から声がかかり毎回ハンドルを握っているとのことだが、1回目は住民から何度もバスを蹴られたという。理由はそれまでの静かな島の暮らしが大きく変貌したから。特に夏場、それまでは家の戸や窓を開け放して下着姿でのんびり昼寝できたのに、見知らぬ人が庭先に無断で入ってくる。たまったものではない。
「あんたがあんな連中乗せてくるからだ。とんでもない迷惑だ!」と不満の矛先が運転手さんに向かったらしい。さすがに2回目、3回目はバスを蹴られることはなくなったそうだが、住民のストレスは依然大きいとのこと。

   

運転手としてレンタサイクルの交通マナーへの不満も大きい。
2回目、3回目とレンタサイクルを利用して島を回る人が増えてきたが、スピードの出し過ぎで事故が起こって、救急車が何度も出ている。狭い道ですれ違う時も道の両側に分かれたりして、運転していても危なっくてしょうがない。レンタサイクル利用者への指導が全然行き届いていないと運営面でも課題も指摘。その一方で自分達には決められた時刻通り走れって言われるしたまったもんじゃないとのこと。

スタッフやボランティアへの不満も含め、諸々の話を聞いたあと、運転手さんから逆に質問された。
「あんたさんのとこ、なんで芸術祭やろうって決めたの?」

女木島はどこも忙しすぎて、ゆっくり話を聞ける雰囲気がなかったが、鬼ヶ島大洞窟の売店で働くおかあさん。
「毎年11月23日にやってるイベントが急に芸術祭に合わせて今日やることになっちゃって、おかげで毎年来てくれてるお客さんがこれなくなっちゃったんだよねぇ。」
「芸術祭期間中はお客さんは増えるけど、あまり売り上げにはつながらないんだよね」
など、こちらも不満が次々と。

男木島でもあまり変わらない。
港でタコ飯や手作りドーナツを売ってる83歳のおばあさん。
「若い人いっぱい来てにぎやかでいいですね」って水を向けたが、「静かな暮らしがね、なくなったよ。今週いっぱいでやっとおわり」とポツリポツリ。

   

45年間、大阪でサラリーマン生活をして退職後、島に帰り某施設の管理人をしているというおじいさん。
「芸術祭やってよかったっていう人とそうでない人、半々くらいかなぁ。今までの暮しが変わってしまった」

芸術祭で島が変わったのは事実だが、その受け止め方は実に様々。
行政が語る「活性化」は報告書に記載された通り、多くの人が認めるが、その活性化の内実に対する評価は様々ということか。

ところで最後に紹介したおじいさんはこうも付け加えた。
「でもここ数年、Iターンで島にやってきた若い人達とはみんな仲良くやってるよ」

そう、男木島は芸術祭の成功例中の成功例として語られる島だ。
芸術祭の公式ガイドブックによれば、男木島の人口は179人。そのうちここ数年で島に移住した人が30人と言われてる。
2年前には閉校となっていた学校が復活し今年は小学生4人、中学生4人、そして今春には保育所も復活し3人が入所してるという。

   

NPOが運営する男木島図書館の横にあるカフェは今年8月に移住した夫妻が経営している。

   

芸術祭を直接のきっかけとして移住したアーティストもいれば、この夫妻のように芸術祭とは関係なくこの島が気に入ったから移住したという人も。

そんな中、偶然宿泊の予約がとれた「民宿さくら」さんは、夕食をいただきながら話を聞くと、芸術祭開催による地域振興のモデルケースのような民宿だった。

   

民宿オープンのきっかけは6年前の第一回芸術祭のアーティストを泊めたこと。
島に宿泊施設が少ないないからと民宿を始め、さらに大きな納屋を漁師のご主人自ら食堂に改装してお昼のお客さんにも対応。
タコ飯でファンをがっちり掴む。

   

さらに倉庫も改装してゲストハウスにしてグループ客や長期滞在者にも対応できるようにした。
今では芸術祭開催期間以外の時期に、静かな男木島を求めて全国にいるリピーターがやってくるとのこと。
食堂の壁に並べられているタコ壺に「松崎しげる」や「南果歩」のサインも。

   

「民宿さくら」さんの魅力紹介は こちらのブログがいいかも。

芸術祭を目的にやってきた人との縁をとても大切にしている「民宿さくら」さんだが、話を聞いているとけっして芸術祭に依存しているわけではない。
むしろ芸術祭が仮になくなくてもやっていける民宿経営、芸術祭がなくても若者が移住してくれる男木島を構想しながら、日々漁に出てタコ壺を引き上げ、コツコツ手作りのお店に磨きをかけ、宿泊客との時間を楽しんでいるって感じ。
※男木島の魅力は別途少し紹介したい。

あらためてまちづくりの基本のような話だが、芸術祭が魔法の杖となって地域が活性化するわけではない。
あくまで手段の一つであり、それが地域に合っているかどうか、財政的に見合うかどうか、それぞれの地域の中で見極めていかなければならない。




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