北野進の活動日記

志賀原発の廃炉に向けた取り組みや珠洲の情報、ときにはうちの庭の様子も紹介。

世界の医学界から取り残された日本の医学専門家 ビックリポンや!

2015-11-03 | 
   

福島県内で子どもの甲状腺がん多発している問題。
政府は原発事故との因果関係を否定し続けているが、これに対して岡山大学の津田敏秀教授は原発事故による被ばくが原因と論文で発表し、国際的に大きな注目を集めている。

この論争について、当然ながら再稼働に賛成だからとか、反対だからといった理由で一方に肩入れするわけにはいかない。
素人なりに少しは論点、争点を理解したいと思い、津田教授の著書「医学的根拠とはなにか」(岩波新書)を手に取ってみる。

読んでみてビックリポン!
日本の医学専門家の多くが世界の医学界から取り残されているのだという。
福島だけでなく水俣病や0157食中毒事件、赤ちゃん突然死など、医学専門家がなぜ判断の誤りを繰り返してきたのかを、日本の医学界の根本的な問題に立ち返って明らかにしている。

医は仁術と言えば杉田玄白じゃあるまいし、と言われそうだが、医師としての個人的な経験や直観を重んじる人がいる。水俣病裁判などでは大きな影響力を発揮した。津田教授は直観派という。
生物学的なメカニズムの解明こそが病気の原因を明らかにするというメカニズム派もいる(私も素人ながら当然そんなもんだと思っていた)。
しかし、世界的には臨床データの統計学的分析(疫学)が、医学における科学的根拠を考えるあたっての確立した手法になっているという。

統計学というと集団を対象としていて、「1人の人間」「生身の人間」から遠ざかるように思うが、津田教授は「日本の多くの医学研究者は、人間個体を直接対象とした科学方法論が疫学という形で存在するという事実にすらあまり気付いていない」と指摘する。

最初はピンと来なかったが、「人間を見る」という点では先日の中村伸一医師の地域医療の取り組みと通じるものがあり、さらに数日前にWHOが発表し日本にも大きな波紋を広げた「加工肉に発がん性」問題も、メカニズムではなく疫学からの指摘だったのかと納得。

原発の賛否や大企業の利益を擁護するといった個別政策への歪んだ思惑があるならまだ根は浅い。
「人間を対象とする統計学」の不在問題は日本の大学医学部の歴史100年に遡る。
日本の大学の医局講座制がつくられたのが1919年施行の大学令で、津田教授は日本の医学部の100年問題と指摘する。

福島では今後さらに子どもの甲状腺がんの増加が予想され、さらにそれ以外の障害や疾病の多発も懸念される。
日本の「医学の専門家」が医学的根拠を語らず、因果関係不明という主張を繰り返すであろうことを、本書は先回りして警鐘を鳴らしている。


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