北野進の活動日記

志賀原発の廃炉に向けた取り組みや珠洲の情報、ときにはうちの庭の様子も紹介。

春の勝東庵 来年は・・・

2013-04-09 | 雑感
 昨年秋に一度紹介した勝東庵の春の庭の様子を紹介。


 車の進入を思わずためらってしまうほどきれいにコケが広がる駐車場。
 もう少ししたら緑が鮮やかになる。


 冬の雪で荒れていた竹藪がすっかりきれいに整備されている。


 なんとも見事な竹のアーチ。


 陽射しが地面に竹藪を映す。動画で紹介できないのが残念だが、足元の竹の影が風でゆらゆら揺れてなんとも幻想的な雰囲気が生まれる。






 門をくくった右手に植えられたヤマブキ。昨年、多くの人に惜しまれる中、亡くなった正院の山岡義明さんが勝田さんに贈ったものだという。




 正面玄関の左手の垣根の奥は白砂が敷き詰められた庭。奥にある枝垂桜(勝田深氷さんの奥さんは「深氷桜と」呼ぶ)がもうすぐ咲き始める。今週末が見ごろか。
 この庭は家の縁側から眺めるように配置されている。




 藪椿が迎えてくれる。

 裏手に植えてある枝垂桜。



 梅はもうそろそろ終わるが、椿はもう少し続くか。これから桜が咲き、新緑がまぶしくなり次々と草花が咲き始める時期を迎える。
 
 さて、実はこの風景が今年限りで見納めとなるかもしれない。
 昨年7月に庵主である勝田深氷氏が亡くなられ、市は勝田夫人に遅くとも今年の7月までにお引き取りを、と伝えている。諸々の経緯、様々な人の思いが交錯する中、勝田夫人は7月までに勝東庵を引き払うこととしている。

 泉谷市長は移築も含め、今後の在り方を検討するとしている。
 金をかければもちろん建物は移築できる。もともとこの建物自体は市内若山町のかやぶき民家3棟を解体し、材料を活用して豪農の家屋を再現したものである。鉢ヶ崎リゾート区域に存在しなければならないという必然性はない。
 しかし、いざ移築となれば財政問題もさることながらかやぶき家屋という物体の移動にとどまり、この景観は持っていくことができない。
 また、仮に現在地での活用を考えることとなっても庭の様相は確実に変わっていくだろう。里山は人が住み、人の営みによって維持されるが、人が作った庭はなおさら住む人の感性や手入れの仕方によって違ってくる。勝棟庵の周囲の景観は、竹藪も含め、勝田さん夫妻が珠洲に移り住んだ約18年間、丹精込めてつくりあげた手作りの作品なのである。

 さらに大きな損失は勝東庵のなかの美術品である。玄関に入ってすぐに目の前に広がる襖絵など日本画家である勝田深氷氏の数多くの作品、あるいは急逝されたため完成を見ずに残された遺作。あるいは作品を手がける前に描いた数多くのスケッチ図。さらには勝田夫妻が世界各国を旅する中で収集した多くの調度品もある。
 なによりもったいないのは勝田夫妻(いまでは夫人だけだが)の国内外の実に幅広い人脈である。芸術文化関係にとどまらず、経済界やスポーツ界も含め、エッ!と驚くような著名人も多く訪れている。
 勝田夫人に引き取り願うということは、これらほとんどが珠洲からなくなることを意味する。

 このような勝東庵に珠洲市は当初の移築費と後の収蔵庫建設費以外は、年間わずか50万円の管理費しか負担していない。なんといっていいやら・・・

 さて、これからどうなるのか。

 さかのぼれば鉢ヶ崎一帯は、かつての林幹人市長当時からりふれっしゅ村鉢ヶ崎として整備が進めら、1992年には女優の朝丘雪路さんを村長に迎えて開村式もおこなわれている。ちなみに勝田氏はその頃、林市長から「珠洲に文化の風を吹かせてほしい」と頼まれたという。

 しかし、当時から指摘してきたことだが、鉢ヶ崎一帯は珠洲ビーチホテルやケビン、オートキャンプ場、海水浴場やテニスコート、温泉(すずの湯)といったいわゆるリゾート施設だけではなく、花卉栽培センターや陶芸センターなどの産業施設あり、珠洲焼資料館や勝東庵などの文化施設ありといった具合でいったいどんなコンセプトがあるのかと疑問になるようなごじゃまぜ地域である。野球場やソフトボール場もあるがこれもリゾート施設ではない。
 当時は原発問題で揺れていた頃でもある。「県は珠洲に原発を押し付け、奥能登を切り捨てようとしているのではない。珠洲の活性化にも一生懸命取り組んでいる」という象徴が鉢ヶ崎であり、反対運動の拠点ともいえる蛸島の切り崩し策も兼ねていた。結果としてハコモノてんこ盛りとなったのである。

 あれから十数年が経過し、すずの湯の老朽化もあり、ようやく一帯の市直営施設のあり方の見直しに向け今年度、鉢ヶ崎周辺施設再編検討事業費ということ300万円の予算が計上された。基本的にはヘルスツーリズムを柱に据えた長期滞在型のリゾートを目指す意向のようである。
 
 海岸や里山でのウォーキングやジョギング、温泉の活用も結構、ビーチホテルもプールの活用含め様々なメニューを用意している。

 ならばそこに勝東庵も位置づけられないか。
 運動や温泉だけがヘルスツーリズムではない。一枚の絵を見て癒される、竹林吹き抜ける風に癒される、庭園を前にして心を無にした時間を過ごす、そんなメンタルヘルスの施設や空間もあってもいいのではないか。浮世絵の世界を極めていく深氷氏の創作の様子を夫人から聞くだけでも、別世界に引き込まれていく。

 勝田夫人に庵主をお願いし勝東庵を残す。あるいは勝田深氷記念館、または資料館として残し、夫人に館長を委嘱する。そうしたなかでこの18年間の勝田夫妻の珠洲での足跡、財産を活かしていけばどうか・・・

 そんなことも思い描いたが、残念ながらはかない夢で終わりである。
 


2 コメント

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Unknown (Unknown)
2019-10-05 08:15:08
貴重なお話、ありがとうございました。
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保存はやはり現在地で (珠洲市民)
2013-04-10 19:51:26
 とても心を癒やしてくれる素敵な「勝東庵」移築しては原風景が再現できません。現在地だから生活感があり竹林とも調和しているのです。
 現在地の保存を切望します。
 それが、珠洲の里山里海の日頃の営みが守れれている光景です。 珠洲の里山里海の原風景を大切にしましょう。
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