ブログ仙岩

各紙のコラムや報道番組、読書の感想、カメラ自然探索など。

ひとりの壁・大石邦子

2016-08-27 09:31:55 | エッセイ
「風のあとさき」185 で、怖い経験というのはなかなか忘れられない。

私は35年来、外では電動車椅子に乗っている。役場や診療所、スーパーも一人で行けた。新しい道でも探索と称する散歩も楽しかった。大型の車のすれ違いは遠い昔の事故の日の記憶が疼いたがそれはむしろ外を歩くときのマナーを強く意識させ、私を守ってくれていたように思う。

ところが、60キロの電動車椅子が交差点で動かなくなり、必死で手を振って向こうからくる車に伝えようとしたが伝わらず、止まってと目を閉じた瞬間、すさまじいブレーキ音と共に急停止、私までの距離は1mとなかった。震えが止まらない私を車から降りてきた二人は怒ることもせず、かがんで車椅子を調べ、後部車輪の内側に「手押し走行切り替えスイッチ」なるものを見つけてくれた。

怒られない悲しみに涙が止まらない私を押して、家まで送ってくれた日のことを私は忘れることができない。名も言わず、仮設の人間だと告げただけで・・・。

それ以来、弟や友達が一緒に歩いてくれればどこまでも元気に、山にも上がれるのに、一人だと怖くて門から外に出られない。

自分が怖いというより、彼らは一瞬私を跳ね飛ばした思う心中を思うとき詫びても詫びきれない恐怖心を与えたことによる。修理された電動車椅子は何も怖くない保証付きでも、ひとりの壁は越えられない。秘かな悩みである。

これは、交差点での出来事による不安障害、パニック的な恐怖症で、安全と分かっていても外出ができないことは、相手に悪いことをしたという自己責任の強迫性障害と思われる。精神科のお医者さんと相談して抗不安薬を服用してみてはいかがでしょうか。