ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

言葉のたまり場  大野新

2015-07-14 14:24:37 | Poem

黒田三郎はのどの奥を癌にやられた
高見順はもうすこし下がって食道だった
言葉のたまり場を灼かれた 
火の断崖(きりぎし)だった

いま前の座席でおさなごが目をあける
うるんで半睡
水の精になっている
まだ言葉が回復していない
鬱血のぬるぬるした
夢ののどに
まだ言葉がめざめていない

梅を観ての帰り
一輪の声が言葉のたまり場でぬるんでいる


   詩集『続・家』 より。


やわらかな湿気を帯びた小さな生命体。水の精。
言葉を語り出す前のおさなごの喉元には、
これから生まれる言葉がうっとりと眠っている。
それから人間はいのちのきりぎしまで、たくさんの言葉を生きて、
またおさなごのようにことばのない世界へ帰るのですね。



「一輪の声」という表現にうっとりしてしまいます。
言葉はこのように美しく開花するものだと改めて考えさせられます。

季節が合わないようですが、忘れないうちに書いておきます。



1928年1月1日、朝鮮全羅北道群山府(現、韓国群山市)生まれ。
2010年4月4日、逝去。