ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

悲しみからはじまる

2015-07-30 16:38:10 | Word



線の千束    高田昭子


初夏の夕暮空は薄あかく 
線描きのような白い雲が流れている
時間はゆっくりと
夜の地平線に降りてゆく

哀しみはあの雲のような細い線
日々のなかで
それは少しずつ殖えて
見えない手が束ねてゆく

ひとたちから愛されること
ひとたちを愛すること
「生きた」ということはこれだけのもので
それでも抱えきれないものとなる

愛の細い線は時間のなかで絡まる
切るか 切られるか 
目には見えないものに
刃物をあてる危険を冒すこともある

哀しみは
わたくしの閉じた目のなかで
いとおしくたなびく線の千束
今夜も夢のなかでひっそりと機を織っている