田島奈都子(編著)
戦前戦中のポスターデザインを研究する東京都青梅市立美術館学芸員。
長野県の阿智村に残されていた135枚のプロパガンダ・ポスターが、この本の出発点であった。戦前期の阿智村は貧しい農村だった。そのために満蒙開拓の悲劇の舞台でもあった土地である。
(かつてモンゴルに旅した時に、開拓民の墓地を訪れたことがあるが、小さな墓標に書かれた出身地が「長野県」が圧倒的に多かったことを忘れられない。)
おそらく1925年あたりから、プロパガンダ・ポスターは制作され始めて、1945年あたりまで続いていたのだろう。この本を読み進むうちに、戦状はどんどん苦しくなる。軍部は国民を追いつめていく。読む方もどんどん苦しくなって、それが怒りに変わるのだった。
兵士の募集、国民への戦意高揚、工廠要員の募集、貯蓄や国債の奨励、小児保健の奨励、銃後奉公、労務動員、米の節約、金や銅や真鍮の供出、養蚕の奨励、化学繊維産業の奨励、羊毛の供出、などなど……際限もなく続くプロパガンダ・ポスター。この費用も膨大なものだろう。
なんて、愚かな戦争に国民は騙され、苦しめられ、我慢し、さらに貯蓄や国債などただの紙になってしまったろう。憤怒の思いで読み終わりました。
こんなに愚かな日本の戦争の歴史から、まだ70年しかたっていないのに、またまた愚かな動きが感じられる今日この頃である。
(2016年7月 勉誠出版刊)
大分以前に書いた詩ですが、ここにふたたび記します。
この星 高田昭子
午後の陽だまりで
わたしの子供がまどろんでいるとき
君の国では明るい月が高くのぼり
あなたの国では朝餉を囲んでいるだろう
――時は途方に暮れている
いま わたしの国を温めている太陽は
君の国からめぐってきた
そしてやがてあなたの国へ朝を届けるだろう
――時がひそかに立ち上がり
武器を手にする気配がする
太陽が一日をかけてめぐってゆく
この小さな星の
わたしたちの時間が凍えてゆく
愛よ 立ちなさい。
この星には
戦争と正義を一つの箱に入れて
一羽の白い鳩に変えてみせる
魔術師たちがいる
わたしたちが
その魔法にかけられる前に
愛よ 立ちなさい。