この書籍は、三浦英之氏が書かれた「五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後」の参考文献の1冊として、紹介されていたものです。
「傀儡国家・満州国」は1932年3月1日から1945年8月18日までのわずか13年5ヵ月で姿を消しました。それは何だったのか?どうしても知りたいと思い、山室信一氏の膨大な知識に消化不良を起こしつつ……。なんとか時間をかけて読みました。
「キメラ」とは、ギリシャ神話に出てくる、頭が獅子(関東軍)、胴が羊(天皇制国家)、尾が龍(中国皇帝および近代中国)の怪物のことで、これを「満州国」に例えたもの。
満州国の執政となった「愛新覚羅溥儀」の曖昧な立場。満州国は関東軍の基地国家であり、議会もなく、憲法法典の制定もないままに終わった。最も酷いことは、すべての政策が日本人による日本人優先の政策で、満州、朝鮮、ロシア、モンゴルの人々は、すべての面で過酷な境遇に置かれました。
さらに「国籍法」制定を阻んだ最大の原因は、日本国籍を離れて満州国籍に移ることを峻拒しつづけた在満日本人の心であったと、筆者は記していらっしゃいました。
『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後 三浦英之』に書かれた「満州建国大学」と「満州国陸軍軍官学校」という最高学府においても、程度の差はあれども、日本人学生優先だったことは間違いない。
この本の第一章から、第四章までは、満州国の歴史を丁寧に辿り、記述されていたように思われましたが、その後の「おわりに」と題された、278~310ページには、山室信一氏の、関東軍の残忍性についての怒りの声が聞こえるようでした。何故、この本が書かれたのか?その答えをみる思いでした。
満州国の誕生とは、難産の末に生まれ、育たなかった鬼子のようなものだったのではないか?小さな島国の人間の未熟な(膨大過ぎる)国造りであったのではないか?それでも、束の間の若者の夢や貧しい農民の夢の大地であったことが信じがたい。しかし、我が父も満州国へ渡った若者だった。若き教師の父のもとへ我が母は嫁ぎ、私は記憶にはない満州国のハルビンで生まれたらしいのだ。そして、引揚者家族となって、小さな島国へ帰還したが、私の故郷はどこか?
『歴史とは、僕がそこから目覚めたいと願っている悪夢だ。 J・ジョイス』
上記の言葉が、心に深く重く残りました。
(1993年 中公新書1138 中央公論社刊)