『「粗にして野だが卑ではない」――石田禮助の生涯』、9月に読了。城山三郎著。文春文庫。1992年6月刊(1993年第5刷)。解説は佐高信さん。940923にA’dにて2冊目として購入。
前書に引き続き、その勢いで本書も本棚の奥から引っ張り出す。城山さんの最高傑作である。何度読んでも飽きない。こんな日本人離れした人物は居ない。是非映画化してほしい。
タバコ巻き発言。「「だって、きみィ、タバコ巻いてるじゃないか」/・・・「きみらは雨の夜中に飛び出て行くこともないだろう。命を的にすることもないだろう。それでも給与がいっしょというんじゃ、おかしいじゃないか。・・・」/・・・「タバコは百害あって一利ない」/・・・「・・・あんなに体に悪いものはない。きみらがつくったら、外国で売りたまえ。ぼくが売ってやるよ」/抗議団は煙に巻かれた。/・・・にがい顔をしていた抗議団もついに笑い出した」。「「あれで、みんなしびれました。・・・」/・・・「あの件は一例だが、石田さんは労使関係を超えて、職員の気持ちをつかんだ。国鉄総裁というより、人生の達人。そういう感じのものが、皆を興奮させた」/・・・「国鉄は昼も夜も休みなく、年間五十億の命を預かって運ぶ」「仕事の質が違う」「仕事の匂いがちがう」―――。/それを伝えるつもりで、国会へ出かける。国会の中を颯爽と歩き、胸をはって答える。/石田は相変わらず、与野党を問わず国会議員を同士としてしか見ていない。同士を前に何を臆することがあろうか」(pp.159-161)。
「石田自身も、国鉄総裁用として渡された・・・八社の優待パスをすべて返上した。/モラルあってのソロバンである。正々堂々と働き、正々堂々と生きよ―――石田の言いたかったのは、そういうことであった。/ついでにいえば、国会議員が無料パスを利用するというのも、いかがであろう。/「パブリック・サービス」を生きがいとする人々が、グリーン車にただ乗りして、心に卑しさを感じないものなのか」(p.172)。
「あるとき、匿名の投書があった。/総裁の特権を利用して孫をグリーン車に乗せている―――と非難する手紙であった。/石田はそれまでにない憮然とした顔でつぶやいた。/「わしがそんな卑(ミーン)なことをすると思うのか」/・・・石田の屋敷内にあった・・・新幹線トンネル工事の影響で水が枯れてしまい、無残な姿となった。/当然、補償要求できるのだが、石田は「とんでもない」の一言。/石田の家族へ新幹線のグリーン試乗券が届けられたが、これも返上させた。家族優遇も一切使わせない」(pp.179-180)。
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