エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

子どもの日常生活に、「平和」を!!

2015-06-23 06:14:24 | エリクソンの発達臨床心理

 

 

 
「愛着障害」のたくさんな子どもたち
  激しい怒りも、活かせば宝!  子どもの頃の作った積み木遊びの音色と、大人になってからついた仕事の音...
 

 

 いまから2年近く前の2013年9月14日(土)に、ETV特集で「トラウマからの解放」という番組が放映されました。「トラウマ」すなわち、「眼には見えない心の傷」、というと、津波や地震、あるいは、戦争や飛行機事故、あるいは、殺人事件などの凶悪事件に巻き込まれた結果、と考える人も多いでしょう。そういう災害や事故は、マスメディアが流す、視覚的なインパクトが強いので、過大評価されがちです。

 しかし、このブログでも以前記しましたように、「今の日本では、大が付く、一回の地震や一回の津波よりも、日常生活の方が、はるかに残酷で、はるかに陰惨で、はるかに人間破壊的」です。

 この番組で、「世界のトラウマ研究をけん引してきた」と紹介された、ボストン大学医学部教授で精神科医の、ヴァン・ダ・コークさんが紹介されています。コークさんはもともとベトナム戦争で心の傷を負った、元兵士の患者の治療と研究から始めたそうです。しかし、次第に、日常生活の中で受ける心の傷の問題の深刻さに気付き、治療と研究の対象としていかれたそうです。アメリカの場合、日常的に受ける心の傷と言えば、家庭内暴力やレイプの被害を受けた、子どもと女性の心の傷の問題が主たる問題であったようです。日本の場合だと、家庭内暴力は少なくないのですが、それよりも圧倒的に多いのが、ネグレクト、すなわち、衣食住は提供していても、親が子どもの目の前から奪われている、ということです。

 心の傷を日常生活の中で受けると、その子どもはどうなるか? コークさんによると、いつも、心の中でサイレンが鳴っているようなもので、不安と緊張を強いられることになるようです。まず第一に、「認知能力が働かなくなる」のだそうです。第二に、「怖い、イライラする、刺激に対して過敏になるといった症状や、身体的な病気にもなる」とのことです。しかし、そのイライラや身体の病気の原因がハッキリしませんから、第三に、「薬物依存症やアルコール依存症になったり、自傷や拒食症など問題行動を取ったり」する場合も少なくないそうです。実に深刻なことですね。

 昨年、日本心理臨床学会大会で公演された、ウェストオンタリオ大学教授で、やはり精神科医のルース・ラニウス教授によれば、日常生活の中で心の傷を負った愛着障害の子どもたちは、うつ、境界性人格障害、摂食障害、依存症など、ありとあらゆる精神科的な病気になりうると、明確に述べていました。いわば、愛着障害は、精神病の総合デパートだ、ということです。

 この番組で、アメリカの「愛着・トラウマセンター」(The Attachment and Trauma Center of Nebraska)が紹介されています。ここは、心の傷を負わされた子どもの治療を主にしているそうで、5年間で1500人以上の子どもの治療をしてきたと紹介されていました。ここの所長で、臨床心理士のデブラ・ウェッセルマンさんが語っています。「心の傷を、子どもの内に治療できるかどうかで、その後の人生を大きく左右すると考えています。心の傷を治療することによって、子どもの心の深いところで変化が起き、癒やしの効果が生まれます。そうすることで、子どもは初めて親を本当に信頼することができるようになるのです。そして、正常に発達し、成長していくようになり、行動も普通になっていくのです。」と。

 秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大さん、名古屋大学の女子大生殺人事件の女子大生、佐世保の女子高生殺人事件の女子高生、いずれも、進学校や有名大学に入る優秀な生徒が、心の温もりを知らず、逆に、子育ての中で繰り返し心の傷を負わされてきた結果の事件であることを、私どもはもっとハッキリと知るべきだと私は考えます。それを考える時、アベシンちゃんが言うように、外へ戦争に出かけている余裕は、微塵もない、と断言します。今の子どもの生活そのものが「戦争」(ベトナム戦争を経験した兵士の心の傷と同等かそれ以上の傷を負わされている)だからです。

 私どもがすべきは、国内の子ども達が巻き込まれている「戦争」に平和をもたらすことであることは、もう明々白々でしょう。

 

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