訪ね漏らしていた寺社を巡って茨城県の守谷市内を歩いていたとき、去年十一月なかばに亀有を歩いたときも、同じ葛飾区内でありながら行きそびれた区域があったことを思い出しました。
中でもとりわけ気になる寺院がありました。葛飾区青戸にある観音寺です。観音寺というからには本尊は観世音菩薩なのでしょうが、インターネットで調べた案内には薬師堂があると書かれていたのに、そのとき私が立てた寺社巡り計画の中で、同じ葛飾区とはいっても、亀有周辺からは少し離れていたので、行かなかったからでした。
松戸駅近くに所用があったので、松戸から一駅、金町で降りて京成電車に乗り換えます。
両津勘吉の主なる舞台は、同じ葛飾区でも亀有なのに、JR駅一駅ぶん、直線距離で2キロも離れた京成金町駅まで出張るようになったみたいです。
高砂で京成本線に乗り換えて三つ目。堀切菖蒲園で降りました。
堀切菖蒲園駅近くのおもちゃ屋(?)さんに両津勘吉のフィギュアが飾られていました。(?)としたのは、この店ではお菓子も売っているし、杖の先のゴムなども売っていて、正体は何屋さんであるのかわからなかったからです。
最初に堀切菖蒲園を訪ねることにしました。この時期ですから、花はないと承知の上で訪ねました。駅名の由来となっていますが、駅から九分と少し遠い上に、途中で道がわかりにくくなります。
堀切菖蒲園。
葛飾区の区立公園です。7700平方メートルという広さに二百種六千株の花菖蒲があるそうですが、この時節は養生の時期でもあるのでしょう。花がないのは承知の上でしたが、ほかの花も何もありませんでした。
菖蒲園の始まりは室町時代、江戸時代と二つの説があります。江戸時代には江戸百景の一つに数えられ、「堀切の花菖蒲」として歌川広重の浮世絵にも描かれています。
堀切菖蒲園から五分、極楽寺(真言宗豊山派)というありがたい名前のお寺に着きました。門前に祀られているいぼ取り地蔵。
極楽寺の本堂です。宝徳元年(1449年)の創建。本尊は阿弥陀如来。
永禄三年(1560年)、この地方で起きた大洪水で、本堂以下ことごとく流されてしまったそうです。
本堂左手前に薬師堂がありました。祀られているのは弘法大師作と伝わる寅薬師、あるいは砦内の薬師ともいい、室町時代、この地域の領主であった窪寺氏の城内にあったものだということです。その城がどこにあったかは不明。
極楽寺から七分で日蓮宗の妙源寺に着きました。
嘉元二年(1304年)、あるいは建武年間(1334年-36年)の創建と伝えられていますが、最初はどこに建てられたのか、明らかではありません。その未詳の場所から本所番場町(現・墨田区東駒形一丁目)に移って、以降、大名、儒者、歌舞伎役者らの菩提寺として栄え、中でも幕府の金座役人・後藤氏は天正時代以来の檀徒として、寺の再建に力を注いだということです。大正十二年の関東大震災で焼失、同十五年、現在地に移転しました。
妙源寺には幕末の朱子学者・安積艮斎(1791年-1861年)先生の墓があります。このお寺を訪ねたのはこれが目的。
江戸で塾を開き、私が敬愛する幕末期の勘定奉行・川路聖謨さんをはじめ、岩崎弥太郎、小栗忠順、栗本鋤雲、清河八郎らも先生の教えを受けました。
妙源寺でUターンし、ラッキー通りというめでたい通りを戻ると、菖蒲七福神がありました。琵琶を持った弁天様が真ん中にあるのは、かつてここに弁天社があったからではないかと思われます。
堀切菖蒲園駅西のガードをくぐって京成線の北側に出ます。
菖蒲七福神から九分で正王寺(真言宗豊山派)。別名赤門寺と呼ばれるもととなった朱塗りの山門と本堂です。
治承二年(1178年)五月、法印俊義(正治元年:1198年寂)が開山したと伝えられています。天文七年(1538年)、国府台の合戦による兵火で焼失して荒廃しましたが、慶長年間、山城国の人・法印源栄(承応元年=1652年寂)が再興し、中興開基となりました。その後、数回にわたる水禍のため古記録を失い、由緒は明らかでありません。
堀切氷川神社。
正王寺から360メートル、歩けば五分ほど離れたところ。ここも正王寺。
地図で見たときには至近距離に同名の寺があるので、もしかしたら誤植? と思ったのですが、こちらには正王寺浄慶庵とありました。先の正王寺の庵室か塔頭だとすれば随分離れていますが、恐らく庵室だったのでありましょう。〈つづく〉
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