細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

都市づくりとコンクリート工学

2019-06-14 12:47:39 | 職場のこと

ある書籍のために原稿執筆を求められました。ほとんど一般の人の目に触れない本と思いますので、これからいろいろ修正も入るでしょうから、初稿ということでブログで一般公開したいと思います。私に与えられたお題は、「都市づくりとコンクリート工学」でした。

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「都市づくりとコンクリート工学」

■都市とインフラと日本人

近代の都市を除いて,古代から世界の都市の多くは囲郭都市であった。農耕によって穀物を集積し,富を蓄え,大勢が集まって住む集落を,周囲の部族からの攻撃や略奪から守るためには,城壁や環濠で防御することが不可欠であり,集落が発展して都市となったもののうち,その周囲に防御壁を巡らせたものが囲郭都市である(参考文献1)。大陸にできた都市の多くは,防御壁なしでは成り立たず,もし無かったとしたら略奪と虐殺が待ち受けているだけであった。自分の愛する家族を虐殺されるというこれ以上ない悲しい経験を重ねてきた大陸の都市に住む人間は,自分たちの命を守るインフラの役割を本能的に理解していると思われる。一方で,日本は歴史的に主たる敵が自然災害であり,相手を憎もうにも憎めず,インフラによって合理的に相手に備えていく,という思考をしにくい環境であるという考察ができる。

■近代都市とインフラとコンクリート

都市を形成する際にインフラは不可欠であるが,近代の都市においては,過去に比べてさらに高度なインフラが必要となった。都市に求められる機能が高度で複雑になったためである。そして,産業革命以降,セメントの工業生産が1850年ごろに可能となり,引張に弱いコンクリートを鉄筋で補強する鉄筋コンクリートが19世紀後半に実用化されたことにより,膨大なインフラがコンクリートで建設されるようになり,現在に至っている。なぜ,これだけコンクリートが多用されるのであろうか。コンクリートの主要材料であるセメントは,石灰石が主原料であるが,セメントを構成する元素はクラーク数の上位5元素,すなわちO,Si,Al,Fe,Caである。セメントとは,地表部付近の素材を活用した地産地消の材料であるため,世界中のどこでも生産でき,安価であるため,多用されるようになったのである。なお,セメントの主原料である石灰石は化石であり,砂利や砂をセメントペーストで接着したコンクリートは無機質な印象を与える場合が多いが,過去に生きた膨大な生物の化石がコンクリートを成り立たせていることを付記しておく。

■コンクリートの長所と短所

都市づくりの観点から,コンクリートの長所と短所について述べる。

長所として,価格が安いこと,耐震性,耐火性,遮音性,適切に設計・施工された場合の耐久性や,巨大な構造物の建設が可能であることなどが挙げられる。コンクリートの技術が無ければ,これだけ密集した巨大都市において,安全で便利で快適な生活や社会活動を営むことは不可能であろう。特に,地震国である日本においては,耐震性と耐火性に優れたコンクリートのインフラが社会を支えていることを強調しておきたい。また,日本では,道路舗装の95%程度がアスファルト舗装であり,この数字は諸外国と比べて非常に高い。コンクリート舗装は白舗装と通称で呼ばれることもあるが,日射による温度上昇はアスファルト舗装よりも低いことが知られており,耐久性にも優れることから,快適でサステイナブルな都市づくりにおいて今後も活用が拡大されていくと思われる。

短所として,不適切な設計・施工がなされた場合に生じる劣化の維持管理に膨大なコストがかかることや,美観や景観の観点で難癖が付けられる場合がある。前者については,そのような劣化が生じないように適切に設計・施工をしたり,深刻な劣化に至る前に適切な予防保全をしながら活用していくべきであり,人間側の問題であろう。後者は主観の問題でもあるが,本来,コンクリートは任意の形状を創ることができるのが長所の一つであり,コンクリートの本来の能力を引き出し切れていない人間側の問題と捉えることもできる。

■今後の都市づくりとコンクリート工学

コンクリート構造物は耐震性に優れると前述したが,これはコンクリート工学における耐震設計の改善や耐震補強技術の開発の結果である。土木構造物の場合,1978年の宮城県沖地震や,特に1995年の阪神淡路大震災が契機となり,耐震設計が大幅に見直され,現在に至っている。また,供用期間の極めて長い土木構造物の場合,既存不適格の耐震性の低い構造物が無数に存在し,それらを最新の設計基準の要求水準を満たすようにするための耐震補強が必要であり,様々な補強工法が開発され,実用されてきた。しかし,大都市を巨大地震が襲ったときの被害想定はいまだに想像を絶する大きさであり(参考文献2),構造物や建築物の耐震性も含めた都市の強靭性の向上は,都市が存在する限り永続しなければならない取組みと言える。

もう一点,明確に意識しなければならない観点はサステイナビリティである。本原稿執筆時点は,人類史上最も資源がふんだんに使用されている瞬間であろうが,資源の枯渇や供給可能量の急激な減少が人類を襲うであろう。特に日本は現時点では資源の自給率の極めて低い状況にあり,豊かな生活レベルを維持しつつ,サステイナブルな社会を構築するために取り組むべきことはまさに無数にある。

完全な純国産のエネルギーであるダムによる水力発電は有望で,既存のダムの嵩上げや運用方法の見直し等により,周辺環境への影響をほとんど与えずに,現在の2倍程度の発電が可能である。

生産年齢人口が急減していく社会においては,生産性の向上は必須である。都市部のみでなく国土全体のインフラの質の向上と,車両等に関する技術開発等により,生産性の圧倒的な向上と,エネルギー消費量の大幅な削減を,同時に達成できるはずである。

気象環境の厳しい日本において,インフラの長寿命化も重要な課題である。資源が枯渇していく中で,コンクリートの使用材料,設計,生産,施工方法,維持管理等の技術も現時点では想像できないような変化が待ち受けているはずで,それをさらなる発展の契機と捉えたい。

参考文献:
1) 合田良実:土木文明史概論,p.23,鹿島出版会,2001
2) 土木学会,平成 29 年度会長特別委員会 レジリエンス確保に関する技術検討委員会:「国難」をもたらす 巨大災害対策についての 技術検討報告書,2018.6






東名高速道路 大和トンネル拡幅工事の現場見学

2019-06-11 10:52:52 | 職場のこと

YNU土木 見学会ファンの皆様

6月29日(土)の午前に、魅力的な企画を設定できました。受入れ数に上限があるので、希望者はお早めに。

何と、これが令和の初ブログとなってしまいました。元気に生きてはおりますが、何となくブログを書く気になりませんでした。これを機に、ブログの方も更新を活性化したいと思います。。。


受験生のためのYNU紹介

2019-04-09 07:31:27 | 職場のこと

大学の広報の一環で、「受験生のためのYNU紹介」という大学HPのコーナーに私もとり上げていただきました。

私は都市科学部の教員として選抜され、受験生に魅力をもってもらえるように内容を記載しました。意欲のある若者たち!仲間になってもらえるのを期待しています。


2月最終日、卒論審査会

2019-02-28 12:32:53 | 職場のこと

今日は2月の最終日で、卒業論文の審査会です。

2月のブログは忙しい忙しい、ばかりで終わってしまいそうですが、このエッセーで繁忙期レポートは終わりにしたいと思います。

今日、28日が学部や大学院の講義等の成績登録期限であり、来年度のシラバスの登録期限でもあったため、大学院の教務担当でもあったことも加わり、相当手間がかかりましたが、昨日、成績入力やシラバスの登録も無事に終えました。

昨日は、私の指導する卒論生2人の指導も行いましたが、先ほど午前に、一人目の福原君の発表が終わり、立派な発表だったと思います。いろんなことを吸収して卒業研究を自分でどんどんと前進させていったので、大したものだと思いました。

卒業論文の審査会は、4年生の晴れ舞台であり、入学時からずっと見てきた教員からすると、基本的にはどの学生も大きく成長した姿を見せてくれるので、私はとても好きな機会です。今日は雨でとても寒いですが、卒業する皆さんの晴れ姿を気持ちよくみさせてもらっています。

2月の繁忙期の最後ですが、明日の3月1日の午後の1時間の講演(非破壊検査協会の講習会で、コンクリートの吸水抵抗性の試験について)の準備に手が回らず、今朝から準備を始め、先ほど終了して事務局に送付しました。何とか印刷に間に合うことを願います。

もう一つ、3月5日の仙台での東北地方整備局主催の品質・耐久性確保に関する手引き類の改訂の講習会の講演資料ができておらず、これは明日の午前まで待ってもらうことになりました。これが終われば、2月の繁忙期が無事に終わります。

今日は、卒業研究の審査会の後、教員の会議で、それが終わると、研究室恒例の学内での打ち上げです。それに先立ち、これまた恒例の研究室MVP2018の投票も昨日締め切りました。打ち上げパーティーにて、MVP投票の上位3名の発表と副賞の図書券の贈呈を行います。

1年間、皆で頑張ってきましたが、終盤に差し掛かっています。


花粉と散歩

2019-02-26 13:03:58 | 職場のこと

先ほど、かなり久しぶりですが、学内を昼食後に散歩してきました。

散歩をした理由は三つありまして、一つは、本日はデスクワークのみなので、ずっと座っていると腰に負担がかかるので運動しようと思ったこと。

もう一つは、通販で購入した花粉対策メガネを今朝、大学で受け取ったので、その効果を試そうと思ったこと。重篤な花粉症である私ですが(2種類の飲み薬のうち、抗ヒスタミン剤でない種類のものを12月中旬から飲んでいます)、マスクと新しいメガネで快適に散歩することができました。

最後の一つは、花粉対策メガネの梱包のゴミをゴミ捨て場に捨てること。ゴミ捨て場に行こうとしたら、実験室で実験をしているラファエルさんの姿が見えました。最近、相当に頑張って実験を行っている博士課程の留学生(ナイジェリア)です。ゴミを捨てた後、実験室に寄り、SWATの計測をしているラファエルさんのところに行きました。円柱の供試体のことで私が気になったことがあったので、質問したところ、彼の回答が返ってきました。これから1年以上、相当にガリゴリと実験をしていくことになると思うので、研究のターゲットが明確になってきた今ぐらいの段階で、徹底的に議論を重ねるべきと思っています。そのようにしっかり議論しなさいよ、という神様からの助言だったのかもしれません。しっかり議論をしたいと思います。

学内の自分の好きなコースを散歩していると、YNUささらサロンにも来ていただいた(というか冒頭の司会をしていただいた)四方先生にばったりお会いして、ささらサロンのことについてほんのちょっと立ち話。面白かったよ、と言っていただき感謝です。

さらに歩いていると、これまたYNUささらサロンに来ていただき、22日の「成熟社会」をテーマにした1~4限の講義を一緒に企画した教育人間科学部の泉先生にばったりとお会いしました。メガネを取って挨拶したところ、「花粉症ですか?」「今日買ったメガネなので効果を試すために散歩してます」「ププッ」

気持ちよく歩いていると、リズムのおかげか、いろんなことを思い出したり、アイディアがひらめいたりします。

ある講義のシラバスの件がふと思い出され、散歩コースを少し変更して、都市科学部の事務に寄りました。事務の方と少し話して、ある小さな懸念事項の対処策が決まり、満足して散歩に戻りました。

今朝は、読みかけで止まっていた、三島由紀夫の「豊饒の海」を再開しました。通勤中、ショパンの音楽を聴きながら、三島ワールドにどっぷりと浸かりました。

溜まっている原稿・報告書や、複数の講演のPPTなど、やるべき業務は溜まってはいます。23日、24日の週末は岩手県の雪山のトンネル(現在は冬期通行止め)を使っての技術開発の実験でした。現場での実験が大好きな人間なので、大変に興味深い、刺激的な実験でした。さすがに疲労が蓄積していたため、昨日は久しぶりに一日休ませてもらい、リラックスできたのか、気持ちもゆったりとし始めています。

卒論の審査会が28日にあり、指導学生の発表の指導も本日から始まります。年度末、です。


ささらの森

2019-02-23 08:50:26 | 職場のこと

昨日、YNUささらサロン「防災」が終わりました。盛況で、私を含む6名の登壇者(2名は土木事務室IMP Officeの女性職員、3名は都市基盤学科の男子2年生)がそれぞれ話題提供し、会場の皆さんと議論しました。非常に良かった、という声が多く、今後の様々な展開につながるサロンとなったかと思います。

なぜ「ささら」?

丸山真男が「日本の思想」の中で述べた、根元が哲学でしっかりと束ねられ、上部がそれぞれの個性で花開くささらのように、これからの日本の大学はささら型であるべきだ、という考えに基づいて、長谷部学長が名付けたサロンです。

IMP Officeの有馬 優さんが、素敵な素敵な文章をまとめて、第二話題提供者として朗読してくれました。

ここに、優さんの文章を紹介します。

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「ささらの森」

IMP Office 有馬 優

「正しさ」とは何か。私がずっと向き合っている問題です。当然、正解などありません。しかし私たちは、大小さまざまな決断を積み重ねながら生きなければならない。だからこそ、その判断基準となる「正しさ」について向き合い続けること、そして向き合い続ける姿勢を身に着けることが、大学教育の重要な役割だと考えています。

多様性が叫ばれる時代。確かに異なる文化を受け入れることは重要なのですが、それを踏まえた上で、それでも何かを「正しい」と言えるだけの思考訓練を、私たちはできているでしょうか。「受け入れる」ことに慣れてしまった私たちは、共同体としての結束力が弱まり、議論のない無秩序な社会へ向かっているような気がしてなりません。

もちろん、「正しさ」を考えるには、他者を知ることが最初の一歩です。人の数だけある「正しさ」に触れ、それまでの自分の思う「正しさ」と照合し、そしてまた「正しさ」をアップデートする。その営みの合間には様々なレベルの意思決定を迫られ、その都度最新の「正しさ」を基軸に選び取る。そうやって個々に「正しさ」を精査することは、人類に通底する「正しさ」を精査することにも繋がります。

そして「正しさ」を考える際に、見過ごしてはならないのが過去に生きた方々、つまり死者です。「土木史と文明」の講義の中でも、数多くの偉人、そして汗を流して文明を築いてきた名も無きエンジニアが数多く紹介されました。トンネル、ダム、橋、鉄道などといったインフラだけでなく、それを築き上げるために集結された人々の知識や経験は、私たちの街の中に生きています。私たちの文明社会を支えているのは、死者たちが選びとってきた「正しさ」なのです。

昨日、学内で開催された特別講演会「大地が示す地域の履歴」に参加してきました。研究者が地域に関わりながら取り扱う研究資料を、地域資源・地域資料と位置づけることで、専門分野の枠を超えた相互の対話を試みる企画です。昨年度末に退官された小長井先生と、教育学部の多和田先生が登壇されました。

興味深かったのはデータの扱い方です。地盤工学がご専門の小長井先生は、情報処理は、不要な情報を捨てることだと仰っていました。理系の分野は、収集するデータが膨大であることがその理由でした。一方で、歴史学がご専門の多和田先生は、古文書をくくっている紐にも価値があると考え、手がかりとなるものはなるべく残すようにしているそうです。

お二人に共通するのは、集めたデータを「正しく」評価していこうとする姿勢でした。歴史学の専門家が、古文書や古地図を利用しながら、過去の災害記録を紐解くこともあります。しかしその情報が本当に正しいのかを見極めるには、その分野を専門とする理系の先生との連携が必要だと、多和田先生は仰っていました。世の中は「予測」で動く潮流がありますが、その「予測」の源泉は、過去のデータです。過去の人々が蓄えてきた知識や、過去に起こった事象を掘り起こすことが、未来の判断基準、すなわち未来の「正しさ」を形作ることに繋がります。

「人は忘れる」。小長井先生はそう繰り返し仰っていました。その後個人的に頂いたメールには、こう綴られていました。「忘れることは人間が自分の体や心を過度な負担から守るために根源的に備わった神様からの授かりものなのかな、と感じます。私たちは、流れに逆らう鮭のような仕事をしているのかな」。

「人は忘れる」。どんなに忘れまいと決心しても。過去と向き合うことは、目を背けたいような事実ごと抱きしめるということです。そしてそこからの学びを、未来へと繋げていくことです。

では、どうするか?歴史を学ぶことはもちろん大切です。しかしそれだけなら、わざわざ大学に来る必要はありません。大学で学ぶのは知識だけではなく、その知識の背景にある死者たちの人生、そしてそれを伝えようとする教員たちの人生です。教室を含めた大学全体が、人生と人生が対面する、知的な遊び場であってほしいと願っています。事務室だって、そこに人が集えば、学び舎です。

また、大学のグローバル化は、過去の日本を思い出すきっかけになると、最近感じるようになりました。理系、特に土木の分野の留学生は、開発途上国の出身者がその大部分を占めます。彼らの研究への真剣さは目を見張るものがあり、その背景には、自分の学びが、母国の発展に寄与するという使命感があるように受け取れます。その様子は、明治時代、国策として海外へ送り出された日本人学生と重なります。留学生たちの母国が更に発展した時、それでも手本となるような何かを、日本は持っているでしょうか。私にとって彼らの存在は、「正しさ」を問いかけてくる”過去からの留学生”に映るのです。

多様な「正しさ」の中に、どんな共通点があるか。それを模索するうちに、人は曲がりなりにも「まっとう」な生き方に一歩ずつ近づけるのだと私は信じています。「受け入れる」だけでなく、「歩み寄る」ことで、同じ人間として高め合える点が見つかるのだと。

だからこそ、この「ささらサロン」のように、所属や立場を超えた議論の場を持つことは大変重要です。土木で頻繁に開催されている懇親会やお茶会も、部局内の「ささらサロン」のような役割を果たしています。そういう場で生まれた小さなアイディアが、大きな改革にひと役買うこともあります。つい最近では、若手教職員の会を開催し、同年代の教員と職員がざっくばらんに語らう時間を設けました。こうした、小さな「ささら」が点在する大学、縦割りや横割りだけでなく、今日のようにプロジェクトベースで色々な人が行き交う大学。そんな環境を、先生方の力をお借りしながら、作っていきたいと考えています。

第1回「ささらサロン」で長谷部先生がご紹介されていた『日本の思想』という本にはこうあります。「日本の総合大学は、今後は蛸壺型ではなく、分野の枠を超えて連携すると共に根底に哲学を持った発展が必要であり、ささら型の大学へ変わる必要がある」。

この、”根底に哲学を持つ”ということが、個人の枠組みを超えた、共同体としての「正しさ」を共に考えていくということと言えるでしょう。それは部署や学部内での哲学から始まり、横浜国立大学としての哲学、日本の大学としての哲学という横の広がりがまず一つ。そして、過去の人々が築いてきた哲学、現代の私たちが考える哲学、次世代に託すべき哲学という時間軸の繋がりにも、私たちは向き合っていかなければなりません。

私は、先生方、他の職員の方、そして学生さんたちがどんな人で、どんな「正しさ」を持っているのかを知りたい。そして、チームYNUとしての哲学を、共に築いていきたいと思っています。受け継いだ命の限り、「正しさ」の苗木を植え続けましょう。私たちが死者となったとき、大学のあちこちに、ささらの森が生い茂る未来を目指して。


2019-02-20 15:18:01 | 職場のこと

最近は、ヒルクライムや長距離走をそれなりにやってますので、それも踏まえて「峠を越える」という感覚について。

ヒルクライムが一番顕著ですが、まあ登りはひたすら辛い。山によっては延々の登りというパターンもありますが、登り下りを繰り返しながら峠を目指す場合もあります。長ーい登り坂が向こうに見えると、「あー」と一瞬暗い気持ちになりながらも、とにかく目の前の一漕ぎを頑張るしかなく、それを積み重ねるうちに坂を一つずつ克服していきます。峠に到達した後の下りの快感は格別です。

今年度の超繁忙期の只中にいますが、もしかすると峠を越えたかもしれません。もう一山くるかもしれませんが、せいぜいあと一つです。油断はしませんが、少し心に余裕が出始めています。3月も仕事量は少なくありませんが、国内外の出張が多く、2月のような追い詰められた様相とは異なります。

先週の12日に修論の最終審査会。18日には私が主査を務める博士課程の留学生の予備審査、19日には修論の中間審査会(なんと50名。留学生が多いため)。大学院の教務担当なので、修論関係は司会進行も私が務めるため、さらに気疲れします。

まあとにかく、昨日に中間審査会が終了し、大学院の入試・教務の重い業務が次々と終了して行っており、峠を越えつつある感覚の根拠です。

昨夜は、帰りに行きつけのスーパー温泉でゆっくり温まり、60分の揉みほぐしもしてもらいました。信じられないくらい肩、背中の辺りが固くなっており、やはり17日の日曜日の仙台での終日の高耐久床版の手引きの会議も含めた疲労蓄積なのだろうと思います。

揉みほぐしてもらい、お風呂でも温まり、夜はとてもぐっすり寝れたように思います。

今日の20日(水)も、朝からガリガリと集中して雑用・会議等をこなし、14時半過ぎに仕事を止め、オフィスを出て、現在、プールに向かっています。ちょっと空いた時間を上手く活用し、心身のリフレッシュ、体力増強も行い、総力戦で2月を乗り切ります。

明日の午後は、国交省の大型研究プロジェクト(研究代表者)の中間審査です。今年度にしっかり進めた研究を適切に評価してもらえるよう、いつもと変わらずベストを尽くします。


最繁忙期 2月後半戦

2019-02-16 10:07:36 | 職場のこと

逃げ出すことはありませんが、さすがに堪忍してほしいという気持ちになる最繁忙期も終盤戦に入ってきました。

YNU土木は、とにかく留学生の数が多く、大学院(博士、修士)について言えば、日本人学生の1.5倍くらいの留学生が在籍しています。ほとんどが奨学金を給付されている学生なので、優秀な方々が多いのですが、教員側への負担も大きくなってきています。

私は今年度、大学院の教務、入試を担当する係なのですが、土木以外は教務と入試は別々の教員が担当します。土木は人員に余裕がないこともあり、一人が兼務します。留学生の激増により、この業務の負荷も相当に大きくなっています。もちろん、この業務だけをやればいいのであれば大した量ではありませんが、我々の通常の業務の他に、これらがのしかかってくるので回し切れなくなります。

しかも、種々の経緯により、YNU15年目選手である私は、大学院担当は実は今年度が初めてです。これまで、学部の入試、教務の担当は数知れずやってきましたが、負担が急激に増大した大学院担当を初めて経験しているため、仕事を回し切れない状況に何度か陥ってきましたが、ようやく終盤戦に入ってきました。

研究指導や講義は最重要業務なので当然に粛々と実施しますし、研究に携わっている学生たちも必死ですので、そのための時間はなるべく多く確保したいと常に思っています。大学のオフィスにいる時間は、相部屋ということもあって個室であった以前よりは学生もコンタクトしやすいためか、ほとんど自分で自由に使える時間はなく、これもまた火の車がさらに回りにくくなる理由になってしまいます。まさに、何事もプラスマイナスの両面、ありますね。

大型外部資金の中間審査や、報告書の作成も複数あり、まあ文句を言っても仕方ないので、魂を吸い取られないように「独立確保」を意識しつつ、火の車を回し続けるしかありません。大型外部資金を取らなければよい、という選択肢もあろうかと思いますが、大型外部資金のおかげで東北の高耐久床版の手引きも仕上がっていきます。毒を飲んで、実を取る。

さて、明日の2月17日は、日曜日ですが仙台で終日会議。東北地整の高耐久床版の手引きの議論の大詰めです。我々の研究室で行ってきた、高耐久床版のひび割れ抑制も、手引きへの実装の具体的イメージが固まり、大きな山場は越えつつあります。しっかりした内容になるよう、今日も作業しますが、明日の会議と懇親会@仙台も充実したものになるよう、1プレーヤーとしてベストを尽くしたいと思います。

2月28日が卒業研究の審査会で、その夜に研究室の打ち上げです。あと10日ちょっとですが、その間に膨大な量の仕事をさばいていくことになります。

とにかく健康第一。睡眠を削るという最終手段にはなるべく手を付けないように自己マネジメントし、今日の午後もジムでRun+水泳をして体力増強に努めたいと思います。

→ 事後報告
ジムで5.4kmのRun(30分)と、1kmのSwimで、快適な汗を流してリフレッシュしました。家族と相談して、夕食は鮭とキノコのシチューがメインディッシュのディナーを作りました。人間らしい時間がないと地獄の中で闘っていけません。大事にしたい時間ですね。。。


YNUささらサロン、のご案内

2019-02-05 08:20:44 | 職場のこと

YNUささらサロン、のご案内です。


ちょうど、NHKのEテレの「100分de名著」でも2月にオルテガの「大衆の反逆」が取り上げられていますね。この困難な時代において、まっとうに生きることとはどういうことなのか、大学の役割とは何なのか、大学における教養教育の役割とは何なのか、を「防災」と絡めて議論したいと思っています。

ぜひ、ご参加くださいませ。


依頼原稿 「研究室環境の改善 -人が育つために-」

2018-11-19 05:00:14 | 職場のこと

以下,土木学会誌から「私の職場」として依頼され、先ほど提出した原稿です。

最初の執筆要領にあった「見出し」が無く、写真も入れられずにほぼ字数制限に至ったので、おそらく編集委員会から修正の依頼が入るかと思います。「私の職場」について、私が書きたかったことをとりあえず盛り込んだ下記の初稿が皆さんの目に触れる機会はないかと思い、ここに記録しておきます。。。

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私の職場である横浜国立大学のコンクリート研究室の紹介をする。2003年10月に着任して,15年が経過し,その間にスタッフも大きく入れ替わった。この原稿の執筆時点では前川宏一教授,小松怜史助教とともに研究室を運営している。

研究室も生き物なので,常に変化しているが,15年強の間,改善を重ねてきた。私たちの研究室は,教員・学生が自らを研鑽し,お互い学び合い,成長していくための場であり,研究・教育活動を通じて社会への貢献も求められる。その目的を高いレベルで達成するために,研究室の物理的な環境やシステムの改善を継続している。

新年度は4月にスタートする。クリエイティブな1年を皆で過ごしたい思いから,新しいものが生まれる雰囲気がする実験棟で新入生の歓迎会を実施する。

2006年の全国大会で琵琶湖にて開催されたコンクリートカヌー大会に初めて出場し,それ以降は毎年,関東支部の大会に出場している。2回目以降はほとんど学生だけで取組み,2011年の総合準優勝がこれまでの最高順位である。さらに,日本コンクリート工学会のキング・オブ・コンクリートにも2015年の初回から出場し1),学生たちの力で優勝,3位,優勝,2位と教員たちも驚く結果を残してきた。学生たちはぶつかり合いながら,葛藤もありながら,チームというものを学んでいくようである。毎年の8月最終土曜日のコンクリートカヌー大会の後の武蔵浦和での打ち上げでは,私も学生たちに交じって何とも言えない感動を味わう。

学部3年生の春学期の必修科目である学生実験の内容も2006年度から大幅に見直し,モルタル梁を作製してのコンテスト形式としている2)。断面寸法や使用材料などの制約条件の中で,最大荷重,梁の重さ,耐久性,コスト等の観点を総合的に数値化してのコンテストである。3年生たちは他の班の工夫もシェアでき,修士1年生を中心とするTAたちと学部3年生のコミュニケーションも活発のようで,元気と連帯意識のある新4年生が研究室に入ってくるきっかけとなっているようである。

夏合宿は研究室の看板行事でもある。私の赴任後の最初の夏である2004年から開始し,2007年の黒部ダムから2泊3日とし,毎年続けている。日中は一級の土木遺産や建設現場などを巡り,夜は懇親を深めて春学期を振り返る。企画は数か月かけて練り込む。訪れていない地方は私のルーツである山陰地方と沖縄くらいである。2018年は,神戸駅に集合し,明石大橋の主塔に登り,四国に渡って旧香川県立体育館と香川県庁東館(丹下健三の設計),青雲橋,満濃池,豊稔池,上吉野川橋,佐川町の廣井勇生誕碑,一斗俵沈下橋,黒潮町の津波防災対策を勉強して高知駅で解散した。一級のものを見て感じるだけでなく,お互いの感想を懇親会で共有することが重要と思う。

近年は,秋の入学生も多い。横浜国立大学の中で土木系は突出して留学生の数が多く,国籍も多様である。私の研究室は他に比べてまだ少ない方であるが,それでも10名前後の留学生が在籍しており,今後はさらに増える見込みである。私の赴任以降も様々な変化にさらされているが,在籍者数の増加に伴い,早速スペース不足の問題が顕在化してきた。

そこで2017年4月に,私は13年半住んだ個室を出て,教員・博士課程の学生・秘書が共住する大部屋を作った。2017年度は前川先生もその大部屋の小机で仕事された。大部屋のアイディアは前川先生に後押しされて実現した。コミュニケーションが活性化し,プラスの効果が大きいと思うし,個人のスペースが少ないことは無駄を抱え込まない習慣につながった。2018年度の完全移籍に伴い,前川先生は個室へ移動となったが,上記大部屋との通路はほぼ常に開けてあり,風通しの良い環境を目指している。

教員以外の部屋も小部屋ばかりであり,廊下の並びの中央付近にある私の以前の個室をミーティングルームとしてレンタルティーサーバーを置いた。私の私物の書籍を公開し,学会の書籍類,月刊誌等を閲覧できる部屋にし,活発に使われている。学生の部屋も半年に一回席替えする。個人机を少しずつ減らし,フリーアドレスの大机を試行的に導入し,在籍者数の増加に先手を打っている状況である。現時点では,その努力もあり,上記のミーティングルームと,解析PC群を置いた解析専用ルームを運用できている。

10年以上前から,学生の実験室係とPC係を置き,それぞれ修士2年を責任者,修士1年生を補佐に付けて謝金を支払って研究室の運営をサポートしてもらっている。月に一回のスタッフミーティングを教員全員も含めて行い,研究室運営の方針の確認と課題の共有を行っている。

冬合宿も行っている。これは2009年度に初めて三崎で行った。夏とは全く趣旨が異なり,一泊二日で,初日は朝から夕食前まで研究ゼミ。近年は2月初旬に行っており,最終審査が間近の修士2年生と学部4年生がそれぞれ研究発表を行い,みっちりと質疑も行う。なるべくOBOGに参加してもらえるよう休日開催としている。大ベテランのOBやOGも参加してくれ,研究を見ていただき貴重なアドバイスをいただける機会となっている。年度の最終盤に向かう直前の夜の懇親会も毎年激しい。

審査会も無事(?)終了し,卒業論文の審査会の夜に研究室の打ち上げを行っている。その場で,学生の研究室MVPを表彰している。研究活動,各種のイベントへの貢献,雰囲気作りへの貢献をすべて勘案して教員も含めて投票し,1位から3位の発表と,教員のポケットマネーからの副賞の図書券を贈呈して毎年盛り上がる。毎年のMVPは研究室HPに永年表彰である。

以上のサイクルを終え,一息付いている間に立派に育った(?)学生たちは卒業し,4月になりまた新たなサイクルが始まる。ご承知の通り,大学は激しい改革の嵐にいいように痛め付けられているが,何とか冒頭の研究室の目的を果たせるよう,今後も改善が必要なのは言うまでもない。

参考文献
1) 小松怜史,木下果穂,中川恵理,田島涼,田中洋人:キングオブコンクリートへの道 ~学生の主体的な取組みによる実践的教育の効果~,コンクリート工学,Vol.54,No.6,pp.648-651,2016.6
2) 林和彦,細田暁,椿龍哉:モルタル梁のコンテスト形式による学生実験の改善と教育効果,コンクリート工学,Vol.49,No.10,pp.37-42,2011.10


僕は教師なんだ

2018-10-24 23:06:25 | 職場のこと

今日は、学部2年生に、英語の講義をした。英語だ。

僕は英語の教師ではない。でも、横浜国立大学都市科学部都市基盤学科(平たく言えば、土木の学生たちだ)の2年生のための、英語の科目を一コマだけ請け負ったのだ。請け負ったからには精一杯やる。

どんな講義をしたってよいと言われた。だから僕は自分のベストと思う方法でやる。文科省よ、文句があればかかってこい。というか、私の講義を見るがよい。見ることなくして批判しないでくれたまえ。こちらは命をかけて教育をしている。やり方に文句があるなら俺の講義を現地で見てから批判すべし。

さて、今朝の授業がいかにexciting であったか。

ある女性の英語が堪能な事務職員(英語の教育免許も持っている)にアシスタントとして一緒に講義をしてもらうことを3週間くらい前にお願いした。スーパーアシスタントだ。

私も英語は得意である。彼女はもっと得意である。現在、横国で職員をしておられる。コラボだ。

90分の講義が始まった。もちろん、我々プロフェッショナルは、お互い忙しいが事前に可能な範囲で、時間はなるべく短縮して打ち合わせを行い、アイディアを出し合い、準備をした。顔を合わせての打ち合わせはお茶を飲みながら30分程度。無駄な時間をかけるのはプロではない。

私はコンクリート工学のプロ(自称、ね)だ。題材はコンクリートに関する英文のテキストを選んだ(伝統ある土木学会の100周年記念の発刊物)。Extradosed bridge, 空港舗装PC版の沈下のリフトアップ、自己充てんコンクリート、を選んだ。学生には1週間以上前に配布して、予習してもらった。

講義では、私が、まずはテキストの内容の概要の解説を7~8分程度。

それから、教員二人(一人は英語教育のプロ、もう一人は私)での音読の手本。私自身も前夜に何度も音読の練習をした。





それから、受講生それぞれが音読10分。ここはパートナー(プロの英語教師)の腕の見せ所で、テキスト全体を着席で音読、その後2回目は立って音読、早い人は3回目を再び着席して音読。



その後、3人一組のグループに分かれてもらって、一文ずつ輪読の音読。5分程度。

学生たちが立ったり座ったりしながら一所懸命英文テキストを音読している姿を想像されたし。非常に爽快な、素敵な現場であった。賛同されない方は、現場を見るべし。

その後、テキスト中の使い勝手のある文章(技術者として)を参照した英作文の演習を2題やって、終了。

これが1セットだ。45分。



このセットを2つのトピックで行い、大学の90分の1コマ終了。

楽しかった。

躍動感もあった。

受講生たちも、これが大学の「英語の」勉強だ、と感じてくれたのではないかと期待する。

講義の最後に5分時間を残した。

二人の教師から、英語が上手になるためのメッセージ、アドバイスを時間の限り伝えた。

大学の教師たちよ、メッセージを伝えているか?学生たちは感じているのか?

文句を言うことなど誰にでもできる。

大事なのは現場だよ。

でき得る努力をしよう。

僕はやっぱり教師なんだ。


お茶会

2018-10-02 07:13:04 | 職場のこと

昨日は10月1日で、大学としては新学期の初日に当たります。私たちの研究室の秘書さんも新しい方が着任し、半年間は二人の体制になります。

私はこの日は当初予定されていた福井への出張が台風でキャンセルされたので、固定されたスケジュールの業務は無く、子どもの世話も少ししながら、11時過ぎ~15時半ごろまで大学に出勤する、というスケジュールでした。出勤時に横浜駅で、3時のおやつでもみんなでお茶でもしながらできるといいかな、と思い、お菓子の詰め合わせを購入。大学に到着後、多くの女性職員の働く事務室に顔を出すと、「みんなで15時にお茶会でもしますか?」と提案してしまいました。

学生の数も増え、この10月にまた多くの留学生が来日し、事務のスタッフも入れ替わり、とにかく組織の変化が続きます。

大学のような組織こそ、まさに人でつくられていますので、人が活き活きと仕事なり勉強なり研究なりしていないと、ある意味存在する意義もありません。

よくコミュニケーションする場や機会があればよいのですが、スペースも限られているし、皆忙しい。

この日は、私たちの研究室のミーティングルームである土木工学棟の305室でお茶会することを提案しました。1年半前まで、私の居室だった部屋ですが、研究室のミーティングルームになり、ついに華やかなお茶会まで開かれる部屋に化けてしまいました。

結局、10名以上参加していただき、楽しいお話や、ちょっとした今後へのアイディアなども交換して、皆がリフレッシュしてそれぞれの持ち場に戻りました。

私も、10月二週目に講義が始まり、段々と火の車になると思いますが、風通しがよく、皆で連携、協働しながら組織の活動をポジティブにクリエイティブにできる環境となるよう、尽力したいと思います。お茶会の2回目以降がどのような形態になるか分かりませんが、続くことを期待します。

自分の時間や体力は限られていますが、その中ででき得ることをやろうと思います。

17時半に帰宅後、長女と道路でバスケ。いくつか、ドリブルで相手を抜き去るフェイクの技を教え、自分にもできそうということでとても気に入っていました。子どもたち3人と夕食。

今朝も4時に起床して、長女のお弁当を作り、家族のフルーツ朝食を準備して、新幹線で滋賀・福井の日帰り出張へ。

自分にできることは限られていますが、それでも一つ一つの時間を大切に過ごすことで、周囲によい影響を及ぼすことができるはずです。