細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

あるべき姿に近づくためには

2016-06-24 11:28:53 | 研究のこと

生きている人間たちが構築している社会システムは、毎日稼働している。生きているのだから当たり前である。

100%のシステムなど無いし、あったとしてもすぐに問題が生じる。100%でないシステムを目の当たりにしたときに、システムの抱える問題の程度にもよるが、システムを改善しようという問題意識を持つのは当然のことと言える。

問題意識を持たない人もたくさんいる。日々のシステムの中で、仕事や役割をこなしていくだけでも大変だからである。

6月22日、23日と群馬県のコンクリート構造物の品質確保の講習会に講師の一人として参加した。山口県で始まったひび割れ抑制、品質確保の取組みが、東北の復興道路や群馬県、他の地域で展開され、展開が始まっており、さらには熊本県の復興におけるコンクリート構造物の品質確保にも応用されようとしている。

なぜこのような取組みが必要なのか。

現状のシステムに課題があるからである。

現在のシステムでも、もちろんコンクリート構造物は日々つくられているし、維持管理もなされている。日用品などとは価格も使用期間も全く異なる社会インフラが、本当に長持ちするようにつくられているであろうか。健全に長持ちするものももちろんたくさんある。しかし、供用されている構造物の点検結果を見ると、もっと長持ちすべきなのに劣化して補修・補強が必要となっているものが少なくない。多いと言ってよい。

現状のシステムに課題があるのは明らかである。ただ、課題のないシステムなどないから、それは当たり前のことでもある。

ではどうやってシステムを改善していくか。

我々の対象であるコンクリート構造物について言えば、これだけ地域ごとに環境作用の異なる我が国において、同じ材料を用いて同じようなつくり方をしていれば、環境作用の厳しい地域では長持ちさせることは難しい。北海道、東北から九州、沖縄までを包含する我が国家において、国や道路・鉄道事業者等のみならず、県、市等の自治体もコンクリート構造物の建設、維持管理を行う。良いものをつくった施工者にはご褒美をあげるような仕組みができればよいが、透明性、公正さが求められる公共事業において、そのような仕組みをつくることも全く簡単ではない。長持ちすることをつくった直後にどうやって証明できるだろうか。

モチベーションの無いことに人間は全力では仕事をしない。

あるべき姿の一つとして、地域ごとに、コンクリート構造物が長持ちするための材料、設計、施工方法等の標準がそれぞれ整備され、よいものをつくるために必要な費用(標準歩掛り)も地域ごとに異なるのがよい。また、長持ちする良い構造物をつくった施工者は適切に評価されるシステムであってほしい。理想のシステムを思い描くことは容易であるが、現状のシステムの中で仕事をこなすこと以上のことを望まない人が大半である実社会において、システムの改善を実践することは決して容易ではない。

特効薬などない。山口も群馬も、東北も、正攻法で取り組んでいる。

出来ることからやる。システムの問題点は複雑である。適切な正攻法で取り組めば、複雑に入り組んだ問題点も、少しずつであるが、見えやすくなってくる。問題点が見えやすくなって、関係者の多くが改善することに納得すれば、後は前に進むだけである。一歩一歩行くしかない。

山口県のシステムに関わらせていただいて、7年3ヵ月が経過した。公共事業の品質確保、耐久性確保、さらには維持管理というテーマなので、私の一生がかかってもシステムが100%になることなどあるわけがないし、仮になったとしても必ずシステムは劣化する。

改善する、仲間とともに改善を楽しむ、ということが生きることそのものであることを群馬県の講習会で再確認した。

今年度もどのような展開になるのか、予想も付かないが、自分の役割を果たし、やるべきことをやるのみである。