「破綻への線路」 渡邊 瑛大
国鉄がJRに民営化されたことで、鉄道の運行だけでなく設備の維持や管理まで民間企業であるJRに業務を委託された。そして、これまで役割を担ってきたインフラの更新の時期となった今、JRは赤字に悩まされる顛末となってしまっている。
例えば、JR北海道では新幹線と、札幌近郊路線である千歳線や函館線の小樽から札幌、岩見沢の区間、室蘭線の苫小牧から沼ノ端の区間は黒字であるが、これらの区間はJR北海道が管理している全線のうちではほんの一部でしかない。また、JR四国では、瀬戸大橋線と予讃線のみで全体の60%以上の収益をあげており、この2つの路線で経営が成り立っていると言っても過言ではない。このように、JR北海道とJR四国はドル箱路線が僅かな区間しかなく、ほとんどが赤字路線であり、経営の厳しい2社は、営業赤字を補填してなんとか鉄道事業を成り立たせるために、JRを所管している国交省に支援措置を求めているが、国は依然として投資を渋っているというのが現状である。
もちろんJR東日本やJR西日本でも地方の路線は赤字である。JR西日本の鉄道事業の運営は山陽新幹線と北陸新幹線に完全に頼っており、同様にJR東日本の鉄道事業の運営は新幹線と首都圏の在来線に依存している。特に、山田線や気仙沼線、只見線などの地方ローカル線は営業係数がかなり悪く、JR東日本でなければ間違いなくすでに営業廃止になっているであろう。
そして、こうした厳しい経営状況を少しでも和らげ、設備投資をしようとして、JRはいくつかの方策を行ってきたが、それらには様々な問題点がある。
1つ目は、人員の削減とそれに伴う駅の無人化やみどりの窓口の廃止である。ここ数年でJR東日本の多くの駅がみどりの窓口を廃止している。また、JR西日本ではみどりの窓口の閉鎖だけにとどまらず、駅を無人化する動きが数多く見られる。確かに、人員の削減による人件費の削減は重要かもしれない。しかし、それによって利用客に大きな影響を及ぼしてしまっている。最近では、小淵沢駅のみどりの窓口の廃止が大きな波紋を呼んだ。みどりの窓口が閉鎖される前は、駅員がみどりの窓口で利用客の切符を発行していたが、閉鎖後は指定席券売機に多くの利用客が並び、駅が混雑するようになったため、結局駅員が券売機の近くに立って案内するという事態になってしまっている。つまり、効率化を求めてみどりの窓口を廃止した結果、切符の発行に余計に手間が掛かるようになり、コストを無駄にした意味のない方策だったのである。こうした状況を見ると、駅員の無配置によるサービスの低下が原因で、今後利用客が減少してしまうということも懸念される。したがって、駅の無人化やみどりの窓口の廃止は特急が停車する駅や利用客が多い駅では止めるべきであると私は考える。
2つ目は、地方ローカル線の廃止や三セク化である。確かに、営業係数が大きい路線を手放すことで、赤字を減らすことは可能である。しかし、地方ローカル線の廃止は、地方と都市や地方と地方を繋ぐ手段を断つということであり、地域同士の交流がなくなってしまう。これは、地方活性化とは相容れない行為であり、むしろ地域を衰退させる主な要因となってしまう。また、第三セクターへの移管は、近年新幹線の開業によって地方部でよく見られるようになった。例えば、JR北海道では江差線が道南いさりび鉄道として、JR東日本では東北本線の盛岡駅から青森駅までの区間がIGR(いわて銀河鉄道)と青い森鉄道として、信越本線の軽井沢駅から篠ノ井駅、長野駅から妙高高原駅の区間がしなの鉄道として、その先の妙高高原駅から直江津駅までの区間がえちごトキめき鉄道として生まれ変わった。JR西日本では北陸本線の金沢駅から直江津駅までの区間がIR(いしかわ鉄道)とあいの風とやま鉄道、えちごトキめき鉄道として、JR九州でも鹿児島本線の八代駅から川内駅までの区間が肥薩おれんじ鉄道として新たに運行を始めることになった。三セク化を行うと容易に運賃を上げることができる。そのため、既に利用客が減少傾向にある地方部の鉄道では、採算性の低下によって運行頻度を減少させたり、運賃を値上げしたりすることになる。すると鉄道の交通手段としての競争力が乗用車と比較すると下がるため、鉄道の利用率がさらに下がり、負のスパイラルに陥ってしまう。こうした状況に進んで行かないようにするためにも、主軸としての新幹線とそれに並行する在来線の2本の動脈を維持することによって、鉄道事業のサービスを維持していくべきであると私は考える。
もちろん、鉄道会社は運行の安全を最優先に考慮するべきであり、そのためにはインフラの建設や更新に投資を行う必要がある。しかしながら、この問題をお金のない鉄道会社だけが背負い、解決しようとしている現状を見ると、私には、この国の鉄道事業の制度が欠陥だらけなものに感じられる。特に、公共交通機関に対して投資を渋るという行為については甚だ疑問であると言わざるを得ない。このような状況を脱出し、経営に苦しむ鉄道事業を救うために、国の力が必要なのは間違いない。具体的には、インフラの維持や管理を国が担うことで、JRは運行に専念することができ、鉄道のサービスを向上させることができるのである。国が鉄道に投資をしない限りは、この国の鉄道は破綻へ向かう線路を進むだけだろう。
参考文献(2021年11月26日閲覧)
東洋経済オンライン「JR東日本の新幹線『一番稼げる』のはどこか」
https://toyokeizai.net/articles/-/193269
東洋経済オンライン「『100円稼ぐのに10万円もかかる路線』がある」
https://toyokeizai.net/articles/-/195313
東洋経済オンライン「JRで一番『効率よく稼ぐ路線』は九州にあった」
https://toyokeizai.net/articles/-/196356
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