連休明けで忙しい所に飛び込みの往診依頼があった。娘さん(四十代?)がわざわざ来ての願いなので無碍にも出来ず、昼過ぎ早めに出掛けた。ゼンリンの地図を頼りにようやく見つけた四階建てのアパート、駐車場は一杯で車を置くところがない。娘さんの影も形もない。やむを得ず看護師が一階店舗の床屋に頼み込んで駐車させて貰う。辿り着いた三階、表札も無くここだろうとベルを押して待つこと暫し、さきほどの娘さんが犬を抱いて現れた。
一昨日から食欲が無いと言うおばあさんを診察して、点滴をすることになったのだがS字フックも紐も無いと言う。{あんたねえ、犬を繋いで捜したらどうなんだ}と口に出そうになる。慣れた看護師がワイヤー性の衣紋掛けを繋いで、点滴をつるすところを作ってくれた。婆さんの血管は脱水もあって出が悪く、三回目にようやく入る。名人の私で無ければ無理だったろう。
経過が良くなければ明日連絡するように告げて、踵を返した。数分遅れて戻った看護師のHさん、床屋さんにもう一度礼を言って乗車すると「駐車場はちょっと離れたところにあるようです。下の店舗に頼んでもないし」と流石に怒っている。「まったくだよなあ、頼めばいいと思って居る」と同感の意を表す。
当院にはドラえもんは居らずタケコプターで往診というわけには行きません。
普通は初めての往診だと誰か家の前に立っていて、手招きをして車を置く所に誘導してくれるものだ。「この頃の患者さん、自分のことばかりという人が増えましたね」とHさん。確かに、そうかもしれない。まあ、わざわざ、立派な菊を持ってきてくださる患者さんも居るのだからと思いなす。