昭和三十年の大阪の河口で、大衆食堂を営む夫婦の一人息子(小学校二年生)と、橋のたもとに留るようになった廓船(一家の家でもあり、母親が売春をする場所でもあります)の姉弟(学校には通っていませんが、四年生と二年生ぐらい)とのつかの間の出会いと別れを描いています。
作者は、1977年に発表されたこの作品で、太宰治賞を受賞してデビューを果たします。
少年たちの交流に、戦争で命拾いしてきた大人たちの生や死をからませて、生きていくことの意味を考えさせられます。
この小説自体も、非常に巧み(あざといとさえ言えますが)に書かれた優れた小説ですが、それ以上に1981年に公開された小栗康平監督の映画の原作としての方が有名でしょう。
キネマ旬報の第一位を初めとしていろいろな映画賞を総なめにした映画では、子役たちのごく自然な演技を、大衆食堂を営む夫婦を演じた田村高廣と藤田弓子を初めとした芸達者ぞろいの俳優陣が支えて、モノクロの映像の中に昭和30年の大阪を鮮やかに再現していました。
特に、客を迎えいれた廓船の闇の中に浮かんだ加賀まりこの顔の妖艶な美しさと、去っていく廓船を主人公の少年が川岸や橋を走りながらいつまでも追いかけていたラストシーンは、今でも鮮やかに記憶に残っています。
泥の河 | |
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