「文学界」2001年6月号に掲載されて、文学界新人賞を受賞した作者のデビュー作です。
母親が家出をして、代わりに父親の若い愛人がアパートに出入りするようになった夏休みを、小学生の少女の視線で描いています。
一見、悲惨に思える状況を、淡々と、あたかも楽しい思い出だったかのように主人公が思うのは、彼女がその愛人と同じ年ごろになって、そのころを回想するかたちで書いているからでしょう。
ある程度の年齢になった主人公の人生に対する諦念が、そのころの少女像に強く反映されていて、生きた登場人物として描けていません。
彼女と弟に対する作者の愛情が一切感じられないのが、同じ年ごろの子どもたちを描く児童文学の書き手とは決定的に違います。