リストラされた中年男が、再就職のライバルとなる他の応募者6人の皆殺しを図るという、常軌を逸した行動を一人称で描くピカレスク小説。
まず、仕事や家庭の安寧といった自分を支えるものが消失した時、人間これほどまでに正気を失うのかと慄然とした。もちろんこれはフィクションであるが、それが絵空事には思えないほど、本書は歪んだリアリズムに満ちている。暗いユーモアをたたえ一見自嘲的に繰り出されるテンポの良いモノローグの連続の裏に隠された凄まじい狂気を、徐々にあぶり出してゆく作者の力量には感服した。
特に、狙うのは“具体的な再就職口をめぐる椅子取りゲームの参加者”ではなく、単に“一般世間的に自分より能力が上の連中”というのが怖い。それを達成するため彼は業界誌にニセの求人広告まで出し、それに応募した“彼と同じスキルを持つ者”をターゲットとするのだ。その過程がまた読者に必然性があるように思わせる妙な理屈を伴っているから始末が悪い。
凄惨な話なのに文体はノリが良く、最後まで一気に読ませる。ラストの脳天気なまでの処理は呆気にとられるが、にもかかわらずジットリとした重さが残るのは、誰しもこの主人公のようにならないとも限らないという、シビアな現実がしっかりと存在するからだろう。「このミステリーがすごい!」の2001年海外編で第4位ランクインの異色作である。
まず、仕事や家庭の安寧といった自分を支えるものが消失した時、人間これほどまでに正気を失うのかと慄然とした。もちろんこれはフィクションであるが、それが絵空事には思えないほど、本書は歪んだリアリズムに満ちている。暗いユーモアをたたえ一見自嘲的に繰り出されるテンポの良いモノローグの連続の裏に隠された凄まじい狂気を、徐々にあぶり出してゆく作者の力量には感服した。
特に、狙うのは“具体的な再就職口をめぐる椅子取りゲームの参加者”ではなく、単に“一般世間的に自分より能力が上の連中”というのが怖い。それを達成するため彼は業界誌にニセの求人広告まで出し、それに応募した“彼と同じスキルを持つ者”をターゲットとするのだ。その過程がまた読者に必然性があるように思わせる妙な理屈を伴っているから始末が悪い。
凄惨な話なのに文体はノリが良く、最後まで一気に読ませる。ラストの脳天気なまでの処理は呆気にとられるが、にもかかわらずジットリとした重さが残るのは、誰しもこの主人公のようにならないとも限らないという、シビアな現実がしっかりと存在するからだろう。「このミステリーがすごい!」の2001年海外編で第4位ランクインの異色作である。


