(原題:Cache )カンヌ国際映画祭でも絶賛されたフランス製の問題作。とにかくめちゃくちゃキツい映画だ。テレビ司会者としてそこそこ成功し、キャリアウーマンの妻や中学生の息子と幸せに暮らしている男の生活が、送られてきたビデオテープによって、その虚飾がはげ落ちてゆく・・・・と書けば何やら通俗サスペンス劇の設定みたいだが、本作の仕掛けは度を超して巧妙かつ悪意に満ちている。
テープの内容は、固定カメラで彼の家の前を延々と撮っただけのもので、その映像は冒頭のタイトルバックにも引用されているのだが、何気ない光景のように見えて観客に凄まじい緊張感を強いる空間の切り取り方に舌を巻いていると、2回目、3回目と続くにつれ、送られる画像には主人公の幼い頃の忘れたい記憶を暗示させるモチーフが積み上げられ、映画全体に漂う不穏な空気は濃度を増すばかり。直接的でないだけに不気味さは極上だ。
やがて、今は何食わぬ顔をしてテレビで尤もらしいことを喋っている主人公は実は小心で偏狭な人種差別主義者だったことが判明するのだが、ただのセンセーショナルな告発ドラマに終わらないのは、虐げられた側の屈託を最悪の形で表現していること。その最たるものが観る者を慄然とさせる中盤のショックシーンだ。
通常、ヒドい目に遭わされた人間はそのことを一生忘れないが、加害者の方は気にも留めていない。それを無理矢理分からせるのは“こういう方法”しかないのだという、吐き捨てるような作者の主張が切実に伝わってくる。
また、インテリ層の表面的な上品さと御為ごかしの社交辞令も容赦なく糾弾され、ラスト近くのエグさも含めて後味の悪さは最大級。こういう露悪的テイストを知的なタッチでジワジワと真綿で首を絞めるように提示してゆく監督ミヒャエル・ハネケの外道ぶり(←真摯さとは紙一重)は天晴れと言うしかない。
気の小さい見栄っ張りをイヤらしく演じるダニエル・オートゥイユと、見かけは常識人だが何か腹に一物ありそうな妻役のジュリエット・ビノシュのパフォーマンスも絶品だ。