元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「野生の夜に」

2006-09-12 06:53:29 | 映画の感想(や行)

 (原題:Les Nuits Fauves)92年作品。全然面白いとは思わなかった。その年のセザール賞で主要4部門を独占したとか、わが国でも評論家連中が絶賛しているとか、いろいろと話題になったらしいが、世評ほどアテにならないものはないと痛感した一作だ。

 CMディレクターである主人公ジャン(シリル・コラール、監督も担当)は、バイセクシャルでエイズのキャリアだ。ある日彼は17歳の少女ローラ(ロマーヌ・ボーランジェ)に出会って愛するようになる。一途な彼女を前に彼はエイズ感染者であることを告白できないままセックスしてしまう。後になって真実を知らされたローラはパニック状態になるが、それでも彼を愛することをやめない。ひたむきに愛を求める彼女にどう応えていいのか分からないジャン。ローラは憔悴しきって神経衰弱状態になり、ジャンの元を去る(以上、チラシより勝手に引用)。

 実際にエイズ患者で、93年の3月に死亡したコラールの自伝的要素もあるらしいが、はっきり言ってこの主人公にはまったく感情移入できない。夜な夜な行きずりの男と関係を持ち、取材先ではあやしげな売春婦と一緒になる。こういう乱れた生活ではエイズになってあたりまえ。しかも、エイズの告知を受けた後は、さらに乱行はひどくなり、男の恋人サミー(カルロス・ロペス)とローラとの間を行ったり来たり。迫り来る死の恐怖をごまかすためかどうかは知らないが、少しは自重したらどうなんだと言いたくなる。エイズにかかったのも自業自得なら、ガールフレンドとあえてコンドームなしでセックスするなんてのは殺人行為と同じ。こんな奴がラストで偉そうに“世界は僕の外側に存在するものじゃなく、僕も世界の一部だ”などと立派なセリフを吐くんだから、笑っちゃうぜ、ホントに。

 主人公の周囲の人物にしても、ただ一人として共感できるようなキャラクターはいない。どいつもこいつもヒステリックでマトモじゃない。類が類を呼ぶとはこのことか。ひょっとしてこの感覚はエイズ・キャリアでないとわからないのでは? と思ってみたりする。誰だってエイズになる可能性はある。私もあなたも、潜伏期が長いからすでにかかっているかもしれない(おいおい)。そうだとわかればヤケになって暴走するかもしれない。でも、この主人公は最初からメチャクチャであり、もとより常軌を逸した自分の姿を観客に勝手に押しつけているに過ぎない。加えて、必要以上に荒っぽいカッティングと乱暴なカメラワークが目を疲れさせる。まったく、気が滅入ってウンザリするような映画なのだ。

 唯一の収穫はローラ役のボーランジェだろう。名優リシャール・ボーランジェの娘でこれがデビュー作だった。実に生意気、実に憎たらしい。ちょっとは可愛いかもしれないが、絶対付き合いたくない。そんなキャラクターを実にうまく演じている。断じて好きなタイプではないが、実力はかなりのもの。最近ニュースを聞かないのが寂しいところである。
コメント
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