(英題:Ice Bar )第21回福岡アジア映画祭出品作品。1969年の韓国の漁師町を舞台に、とうの昔に亡くなったと聞かされていた父親がソウルに住んでいることを知って、ソウルまでの旅費を稼ぐためにアイスキャンディーを売り始める10歳の少年と、その家族・友人たちの人間模様を描くヨ・イングァン監督作。
有り体に言えば“お涙頂戴映画”なのだが、筋書きは決して荒っぽくなく、まあまあ安心して観ていられる。生活のためにヤミ商品を売り歩き、しかし主人公のことを心から想っている母親、この親子関係がしっかりと押さえられており、大仰な“泣かせ”にあまり走ることもなく、的確な描写が続く。特に息子が親に内緒でアイスキャンディー売りをやっていたことがバレるあたりのシーンは、キャストの好演もあって盛り上がる。
さらに、アイスキャンディーを扱う会社で働く北朝鮮出身の若い男の扱いは秀逸。当然、周囲との確執があり、ぬるま湯的な展開になりがちな題材をうまく引き締めるモチーフになっていたと思う。60年代の風俗表現は万全で、ノスタルジックな気分に浸れるし、暖色系を上手く使った映像も作品の雰囲気によくマッチしている。
ヨ・イングァンの演出は手堅く、作劇を淡々と進めるかと思うと、主人公の友人が鉄道事故に遭う場面のドラマティックな描写など、ここ一番の求心力で盛り上げ、メリハリのつけ方はけっこう上手だ。こうしたウェルメイドぶりが評価されてか、本作はこの映画祭でグランプリを受賞している。
ただし、欠点もある。母親と別れざるを得なかった父親の事情が説明不足だ。セリフで御丁寧に解説する必要はないが、真相が想像できるような暗示を振っておいた方が良かった。そして、理不尽な事故に遭う主人公の友人をはじめ、子供に対する扱いが厳しすぎるのは気になった。主人公が大人からボカスカ殴られるのは、見ていて実に不快だ。まあ“韓国ではこんなものだ”と開き直られると何も言えないが・・・・。