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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「リード・マイ・リップス」

2007-07-25 07:10:13 | 映画の感想(ら行)

 (原題:Sur mes levres)2001年作品。難聴の女性が仮出所中の男が出会ったことにより犯罪に巻き込まれてゆくというフランス製サスペンスだが、面白いのはヒロインが耳が不自由であることが原因でピンチに陥るという、いわば「暗くなるまで待って」の難聴版のような展開が絶無であること。

 不動産デベロッパーで社長秘書をしている主人公は、ボーイフレンドもいなければ化粧気もない。与えられた仕事は的確にこなすが、同僚や上司が障害者に対して抱くイメージ通りの“地味な女性”を装っている。しかし彼女の内面では野心や欲望が渦巻いており、得意の読唇術を利用した社内の情報掌握にも長けている。そんなヒロインが前科者の助手を雇ったことをきっかけに次第に本性をあらわにしていく過程が実に興味深い。助手に命じて同僚を罠にかけて仕事を横取りするのを皮切りに、彼から持ちかけられたマフィアからの現金強奪作戦に嬉々として協力したりする。

 演じるエマニュエル・ドゥヴォスが“開き直った女のふてぶてしさ”を絶妙に表現していて圧巻(セザール賞の主演女優賞を受賞)。しかも全く下品にも粗野にもならないところが素晴らしい。手持ちカメラによる接写主体の撮影、及び主人公の補聴器の有無により音響を制御しヒロインの主観的な世界をサウンド面から追求しているところなど、物語そのものが一人の女性の内的状況を反映したセンシィティヴなものであることを強調している点はさすがフランス映画である。

 監督は「天使が隣で眠る夜」のジャック・オディアール。相手役のヴァンサン・カッセルの存在感も捨てがたく、これは久々のラヴ・サスペンスの佳篇と言えよう。
コメント
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