goo blog サービス終了のお知らせ 

元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ヴァイブレータ」

2009-05-13 19:25:07 | 映画の感想(あ行)
 2003年作品。分裂症気味の女性ルポライターと孤独なトラック運転手との“道連れの旅”を描いた赤坂真理の同名小説を廣木隆一がメガホンを取って映画化。主演の寺島しのぶの大胆演技も相まって世評はかなり高かったが、私はそれほどのシャシンとは思わない。

 最大の敗因はヒロインの内面の説明が過剰なこと。モノローグはもちろん、心の中の動きまでセリフで表現し、さらには無声映画ばりの“全面スーパーインポーズ”までが頻繁に挿入されるに及んで、観ていて気分が悪くなってきた。ベテランの荒井晴彦の脚本とも思えない失態である。

 女主人公の“過去”を匂わせるフラッシュバックの多用も鬱陶しいだけで、要するに登場人物の“手の内”を全部開示してしまっており、ストーリーが文字どおり“語るに落ちる”範囲でしか動かない。ラストの処理も取って付けたようだ。もっと映像だけで物語を綴るように腐心すべきだった。

 考えてみれば、廣木監督は多作のわりに目ぼしい映画と言えば前に紹介した「夢魔」ぐらいで、良く言えば中堅、早い話が凡庸な作家の部類に入る。“この程度”が達成度として妥当なところだと評するのは意地悪に過ぎるだろうか。

 ただし、相手役の大森南朋の演技だけは素晴らしい。ヒロインと同様にセリフは多いが、本当の自分を表に出さない。ラスト近くになってようやく彼の真の姿と苦悩を垣間見せるのだが、その抑制された語り口が見事に役をこちら側に引き込んでいる。寺島は“二世俳優”として知られているが、大森も父は異能の俳優だ。今後の活躍に期待したい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする