(原題:Fahrenheit 9/11 )2004年作品。同年のカンヌ国際映画祭で大賞を獲得したドキュメンタリー映画。監督マイケル・ムーアの政治的スタンス云々は別にして、純粋に“作品の出来そのもの”について言及すれば、この映画はとても評価できない。理由は、ほとんど映画的なスリルがないからだ。
作者の中に反ブッシュあるいは反マスコミといった“結論”がまずあって、膨大なニュースフィルムをその“結論”に合致するように“編集”しているだけである。確かにその繁雑な作業をやり遂げたこと自体は評価できよう。ただし肝心の“語り口”が拙い。
こういうネタは緻密なデータ分析を元にして観客に問いかけるのが本筋だと思うのだが、ここにあるのは“実はこうなのだ! 驚いたか!”といった一方的な決めつけに基づく大仰な口上ばかり。さらに自信満々で放ったはずのギャグもすべて空回りでは、観ていて虚しくなってしまう。ムーア得意の“アポなし突撃取材”もあまりなく、戦死した兵士の遺族へのインタビューも(内容は悲惨ではあるが)予想通りの展開しか示せない。
この前作「ボウリング・フォー・コロンバイン」も突っ込みは浅かったが、テーマ選定の面白さと“観客に考えさせよう”という作者の冷静さだけは感じたものだ。しかし、この作品にはそれがない。単に自分の思うところをワーッと捲し立てているだけで、余裕も意外性もない。テーマだけが先行した映画が面白くなるはずもないのだ。
アメリカの対外政策を広く問題提起させる意味では存在価値のある映画なのかもしれないが、本作を観るより関係文献をチェックした方がよっぽどタメになるのは言うまでもない。