元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「トータル・リコール」

2012-08-17 07:18:44 | 映画の感想(た行)

 (原題:Total Recall)映画の設定自体が噴飯物である。21世紀末の地球は戦争によってほとんど人が住めない状態になっており、わずかに上層階級中心のブリテン連邦と下層階級民ばかりの豪州のコロニーの2か所のみが居住地域として機能している。地球の真ん中を貫通して両者を繋ぐ“フォール”と呼ばれる移動装置により、労働者たちは日々地球内部を移動しては戻ってくるという社会構図が作り上げられている。

 これのどこがオカシイかというと、人類の生活を支える産業基盤がまったく提示されていないことだ。労働者たちは毎日ブリテン連邦に“出勤”して仕事に追われているが、その生産活動の享受者は一体誰なのだろうか。上層階級の連中だけでは、コロニーの大半の労働者が産み出す供給物を消費できるはずがない。ならばその生産物やサービスはコロニーにも“輸出”されているのだろうか。しかし“フォール”には人員を運ぶ以外の機能は付与されていないようだ。そもそも、食料を生産するインフラも見当たらない。

 斯様な穴だらけの御膳立てで“上層階級vs下層階級”みたいな手垢にまみれたモチーフを平気で持ち出すとは、本作の作者は相当に無神経だと言わざるを得ない。

 コロニーに住む工場労働者のクエイドは、退屈な毎日を少しでも紛らわせようと、人工記憶センターのリコール社を訪れる。だが、リコール社の施術が開始されたその時、なぜか突然ブリテン連邦の警察隊の襲撃を受ける。パニックに陥ったクエイドだが、次の瞬間警官隊を一人で片付けていた。どうやら自分には秘められた戦闘能力があるようだ。

 混乱の中で帰宅したクエイドは、今度は彼の妻ローリーから殺されそうになる。彼は元々ブリテン連邦のエージェントであったが、任務遂行中に反政府組織に共感し、反乱分子に転じた過去を持つ。連邦側は彼に偽の記憶を植え付け、反乱組織のボスを見つけ出すために泳がせていたという事実が明らかになる。

 ポール・ヴァーホーヴェン監督による前回の映画化と同じく、フィリップ・K・ディックによる原作のテイストは限りなく薄く、これ全編ドンパチの連続だ。ただし「ブレードランナー」のパクリみたいなコロニーの風景と、「フィフス・エレメント」の類似品みたいなブリテン連邦の有様を見せられただけで、鑑賞意欲が減退するのは確かである。

 さらにアクション場面の段取りも“どこかで観たようなもの”が目立つ。画面は派手だが、レン・ワイズマンの演出にはキレもコクもなく、賑やかなわりには退屈だ。

 主演のコリン・ファレルは線が細すぎる。シュワ氏並の存在感は無理だとしても、せめてマット・デイモンあたりのレベルはクリアして欲しい(笑)。過激な“奥さん”役のケイト・ベッキンセイルの立ち回りは「アンダーワールド」シリーズとさほど変わらず。イーサン・ホークやジェシカ・ビールら脇の面子の仕事も大したことはない。全体として、どうしてわざわざ再映画化したのか分からない出来である。
コメント (2)
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