元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ふたりでスロー・ダンスを」

2019-07-12 06:33:05 | 映画の感想(は行)
 (原題:Slow Dancing in The Big City)78年作品。ジョン・G・アヴィルドセン監督といえば「ロッキー」と「ベスト・キッド」のシリーズで有名になり、スポ根映画専門の演出家みたいな印象があるが、本作のようなロマンティックなラブストーリーも手掛けている。しかも出来は良い。知る人ぞ知る佳作だと思う。

 ニューヨークの新聞社でコラム欄を担当している中年記者のルーは、社会の底辺で生きる人々に密着しサポートする人間味あふれるジャーナリストでもあった。ある日、彼が住むアパートにサラという若い女が引っ越してきた。彼女はバレエ・ダンサーで、愛人の実業家と別れたばかり。ルーは小さなトラブルによってサラと知り合うが、たちまち恋に落ちてしまう。



 サラの方も満更でもない様子で2人は距離を縮めるが、実は彼女は原因不明の下肢の痛みに悩んでいた。ダンスのパートナーであるロジャーの勧めによって医者に診てもらうが、これ以上ダンスを続けられる状態ではないことが分かり、愕然となる。それでもルーに励まされ、サラはリンカーン・センターでの最後のステージに立つ。

 主人公2人の馴れ初めと恋の進展の度合いは、余計なケレンがまったく無く、実にスムーズで情感豊かだ。特にアパートの屋上でスロー・ダンスに身をゆだねる場面は、思わず見入ってしまうほど素晴らしい。また、サブ・プロットとしてルーが面倒を見るハーレムに住む少年のエピソードが描かれるが、これが冷徹なリアリズムで身を切られる思いがする。「ロッキー」の一作目(76年)では貧しい地域に住む者達の哀歓を描いたことが評価されたが、本作でもそのテイストは踏襲されている。

 サラが属する舞踊団はモダン・バレエが専門で、映画では頻繁に取り上げられるクラシック・バレエとは異なる、スタイリッシュな魅力が満載だ。サラを演じるアン・ディッチバーンのパフォーマンスはなかなか見せる。ルー役のポール・ソルヴィノもとても良い味を出しており、アニタ・ダングラーやヘクター・ジェイミー・マーケイドといった脇の面子も万全。音楽は「ロッキー」と同じくビル・コンティが担当しているが、本作では流麗なスコアを披露している。
コメント
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