その年の夏、チエちゃんはいつになく早起きでした。
それは、毎朝配達される「マミー」を冷たいうちに飲みたかったからです。
あれは梅雨に入った頃だったでしょうか。
隣組の松本さんが、チエちゃん家にやってきました。
「俺、今度ない、牛乳配達やることになったんだぁ。
ほんで、こっちの家でもひとつどうがなど思って来てみたんだげんちょも・・・
どうだべ? ばあちゃん!」
「・・・・」
おばあちゃんは、思案顔です。
「ほうだ、これはどうだべ?
今度ない、森永がら新発売の『マミー』っていうんだげんちょも、
ま、ヤクルトみだいなもんだない。
子供の成長にもいいんだぞい。
さ、チエちゃん、飲んでみっせ。これは、サービス!
ばあちゃんも1本どうぞ。」
チエちゃんとおばあちゃんは、牛乳瓶よりも小さな瓶に入ったマミーを飲んでみました。
ヤクルトとは少し味が違うけれど、甘くて美味しい。
でも、チエちゃんは思いました。
うちで、こんな贅沢な物を取るはずがない。たま~になら、まだしも毎日だなんて。
「どうだべ、ひとつ? ばあちゃんのほまぢ(ほまち金)で。孫さまも喜ぶぞい。」
と、松本さんは揉み手をしています。
「チエ、どうだい? 飲んでみっか?」
「うん」
「ほんじゃ、2本ずつ3ヶ月お願いすっぺが。」
「はいはい、毎度ありがとうございます!」
こうして
森永マミーは、チエちゃんの期待をよい方向へと裏切る形で毎日届けられることになったのです。
おばあちゃんは孫たちを喜ばせたかったことはもちろんですが、隣組の人の頼みを無下に断ることができなかったのです。
注:森永マミーは現在も販売されていますが、紙パックのみで瓶入りのものはないようです。
リンクサイトの「マミーのご紹介」で1965年を見てください。
チエちゃんが飲んでいたなつかしい瓶入りマミーを見ることができますよ。