あんどぎは、ほんとに大変だった。
隣組の人らで出羽三山にお参りに行ったごどがあったのな。
ほしたら、むごう(出羽三山神社)でも、この村が(出羽三山)開祖の蜂子皇子(はちこのみこ)の母親の女神さま所縁の土地だって知ってっから、一番前の席に座らせらっちゃんだと。
巫女さまが一番年上だったおらい(うちの)のじいちゃんの前に立って、
「遠いところ、よく来てくださった。これからも女神さまをよろしく頼むぞえ」と言葉を掛けてくっちゃんだと。
ほんとぎ、じいちゃんは雷に打だれだみだいに、ビ、ビッと来ちまって、「ありがでなぁ~」って思ったんだと。
そうして、帰って来てがらが大変だったのよ。
「『女神さまをよろしく頼むぞえ』と言わっちゃがらには、女神さまの祠を何とかせねばなんねえ。」
つって(言って)な。
草ボウボウだった祠の周りをきれいに草刈ってな、『女神さまをこのままにはしておがんに』って隣組中を回って歩いで、そんだけでなくて、村中の誰彼と捕まえては女神さまの話をしてだのさ。
挙句の果でに、村役場に押しかげで行って、村長様に直談判までしてなあ。
まあ、体よぐあしらわれだとは思うんだげんちょも・・・
夜も寝ねでガタガタやってっから、このままでは身体が持だないと思って心配してなあ。
ばあちゃんが説得しても、お父さんが言っても、「お前らは何言ってんだ!女神さまのためにやんねっか(やらねば)なんね」とさっぱり効がねがった。
隣組の人らには「おめげ(お前の家)のじっち(じいちゃん)は何のどごだべ。まったぐ、迷惑だ!」って言わっち、ほんとに困ったっけ。
そうこうしてだら、本家の正一ちゃん(今週亡くなった父の従弟)が聞ぎつけて来てくっちゃのな。
「おんつぁ(おんつぁま=おじさん)、しっかりしっせ!
おばさま(おばあちゃんのこと)も、家族も、村の皆も心配してんの、わがんねのが?」
大きな声で一喝したあど、昏々と説得してくっちなぁ。
じいちゃんは黙って聴いでだんだげんちょも、しばらくしたら
「ほうが・・・本家がそう言うんなら、俺も考えねっかなんねな。」
「ほうがい(そうかい)。おばさまの言うごど、ちゃんと聞いで、まずは寝所へ行って休まんしょ!」
ほうして、一晩ぐっすり眠ったじいちゃんは、次の朝、憑き物が落ちだみだいにさっぱりとした顔で起ぎできたのよ。
ほんとに本家の正一ちゃんは大したもんだ。有難がったよ。
それからしばらくして、祖父は女神さまに正気を吸い取られたみたいにボケてしまった。
今でいう認知症だ。
徘徊することは無かったが、世話してくれる母を『どこかのねえちゃん』と呼んで好々爺然としていたことを私は今でも覚えている。
私はこの出来事がきっかけで宗教は怖いと思い、無宗教となってしまったのかもしれない。
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