魚が出てきた日

2011年05月29日 | 風の旅人日乗
もう40年も前の、
九州の田舎の高校生だったときのことだけど、
水泳部の練習をサボっては、
大好きな映画を観に通っていた。

その頃、
ストライプのシャツにチノパン、そして白いスニーカー
といったアイビーっぽい着こなしがよく似合う
とても知的な顔立ちのキャンディス・バーゲンという女優さんに
憧れていて、彼女が出る映画は、おそらく全部観た。

そのキャンディス・バーゲンが出ているという理由だけで、
『魚が出てきた日』
という映画を観に行った。

何も知らずにキャンディス・バーゲンを観に行ったら、
それは、ある日突然、放射能で汚染された魚が浮いてくる
という映画で、しかも住人には、
魚が大量に浮いてきた理由を一切知らされないという、
それはそれは怖い映画だった。
あんぽんたんな田舎の高校生ではあったが、
その映画を観た後は、しばらく暗澹たる気持ちの日々を過ごした。

さらにさかのぼった小学校の頃、怖がりながらも観に行っていた
東宝映画の『ゴジラ』は、
南太平洋の水爆実験で、海とそこに住む海洋生物が汚染され、
突然変異でゴジラという恐ろしい水爆怪獣が生まれたのだ、
という筋書きだったと記憶する。

そしてそのゴジラは、
なぜかわざわざ日本にやってきて、
こんな醜い姿にされてしまった怒りの叫び声とともに
人間たちに向かって放射能がたっぷり含まれた炎を
口から放射するのだった。

福島第1原発のはるか沖合いの、
岩手から千葉にいたる広い範囲の海底が、
通常の数百倍もの濃度の放射性物質で
汚染されていることが発表された。
この海を泳ぐ魚も、海草も、すべて汚染されていることになる。

『魚が出てきた日』も『ゴジラ』も、現実のものになり、
しかも、作りごとの世界である映画とは異なり、
現実のできごとである今回の大事故を起こした犯人は、日本人だ。

そうして、今、この瞬間も、
昨日、おいしい夕ご飯をみんなで楽しく食べていたあの時間も、
この日本の、福島第1原発から、
大量の放射性物質が、大気と海を介して放出され続け、
世界中に拡散し続けている。
日本全国の放射線量を計測して回っている人の資料によれば、
すでに大阪も東京と同じ放射線量で、
少なくとも日本列島においては、
どこも50歩100歩の状況にあるらしい。

ツイッターを使いこなして、
相互の意思疎通を図っている、
高度な知性を持つ立派な社会人の人たちが、
この日々においてさえ、
ご自分の趣味や興味ごとのお気楽な話題で盛り上がっているのを、
ときどき拝見してしまう。

余計なお世話だ、と言われそうだし、
当然皆さん福島第1原発が、
非常にまずいことになりつつあることも、
ご存知の上で、敢えてお気楽なツイートをしているのでしょうが、
それでも敢えて言わしていただければ、

最新の相互コミュニケーション術を自在に操り、
しかも原発汚染の深刻さについて
正確な見識も持っているに違いない日本人の大人であるあなたがたが、
今は日本国民のオピニオンリーダーとして、
この日本の危機、地球の危機にどう対処すべきかを、
ツイッターを介して知恵を結集すべきときではないか、
と思うのです。

あなたがたが将来も、ご自分の人生を
現在のように楽しく過ごせるためにも、
この問題について、
どうか、今は真剣に考えてみていただけないでしょうか?
皆さんのお力にすがりたい思いです。