今回は、「染錦 水仙菊文 六角形小鉢」の紹介です。
この小鉢は、墨書された木の箱の中に7点入っていました。
その木の箱の蓋の表には次のような文字が書かれています。
「六角形外紅梅 内水仙菊模様 酢合皿 斗拾人前 弐箱ノ内」
と書かれているようです。
また、その木の箱の側面にも文字が書かれています。
「六角形外紅梅 内水仙菊模様 酢合皿 斗拾人前 弐箱ノ内」
と書かれていて、蓋の表に書かれている文字と同じです。
この木の箱に入っていた小鉢7点は、次のようなものです。
表面
裏面
代表の1点の表面
水仙と菊が描かれています。
口縁には金彩で口紅が施されていたようですが、今では、殆ど剥げ落ちています。
代表の1点の側面
紅梅が描かれています。
代表の1点の底面
折り枝梅文は3か所に描かれています。
生 産 地 : 肥前・有田
製作年代: 江戸時代後期
サ イズ : 最大口径;12.2cm 高さ;5.6cm 底径;5.8cm
なお、この「染錦 水仙菊文 六角形小鉢」につきましては、かつての拙ホームページの「古伊万里への誘い」の中で既に紹介しているところです。
つきましては、次に、その時の紹介文を再度掲載し、この「染錦 水仙菊文 六角形小鉢」についての紹介とさせていただきます。
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<古伊万里への誘い>
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*古伊万里ギャラリー213 伊万里染錦水仙菊文六角形小鉢 (平成28年2月1日登載)
箱の蓋の表面と側面に「六角形外紅梅 内水仙菊模様 酢合皿 斗拾人前 弐箱ノ内」と墨書されている。
元々は20個あり、10個ごとに箱に入れて2箱として収納したもので、この箱はその2箱の内の1箱であることがわかる。
この箱には7個しか入っていなかったので、あとの3個は破損等で欠損したのであろう。
また、器の口縁には金彩が施されていたが、今では、そのほとんどが剥れ落ちている。相当に使用されたようである。
なお、この箱の中に入っていた7個の器の文様と形態は、墨書文字に記されている文様と形態に一致するようである。
ところで、箱には「酢合皿」と墨書されているので、そのように墨書した以前の所有者は、これを酢の物の料理を盛る「皿」として使っていたことがわかる。
しかし、私は、このような器形は、「皿」というよりは「小鉢」としたほうがふさわしいと思うし、また、これに盛る料理も酢の物には限らないと思うので、単に「小鉢」と表示したいと思う。
江戸時代後期 最大口径:12.2cm 高さ:5.6cm 高台径:5.8cm
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*古伊万里バカ日誌142 古伊万里との対話(水仙に菊と紅梅文の小鉢) (平成28年2月1日登載)(平成28年1月筆)
登場人物
主 人 (田舎の平凡なご隠居さん)
小 鉢 (伊万里染錦水仙菊文六角形小鉢)
・・・・・プロローグ・・・・・
今年は暖冬とはいえ、やはり、厳しい寒さが続いていると、春が恋しくなり、花が恋しくなるようである。
主人は、ついつい、春の訪れを感じさせるような古伊万里と対話をしたくなったようで、それらしい物を押入れから引っ張り出してきて対話を始めた。
なお、これまで、主人は、その肩書き(?)を「田舎の平凡なサラリーマン」としてきたが、もう、いつまでも若い現役気取を続けているのも不自然ではないかと感じ取ったようで、今回からは「田舎の平凡なご隠居さん」に変更したようである。
主人: 厳しい寒さが続いているので、春が、花が、暖かさが恋しくなり、お前達と話がしたくなった。
小鉢: でも、私達には、早春を感じさせる水仙と紅梅の他に菊が描かれていますよ。
主人: うん。古伊万里には季節音痴が多いからな~。だが、「水仙」と「紅梅」と「菊」の三つのうちの「水仙」と「紅梅」の二つは早春を感じさせるわけだから、多数決で、全体としては早春を感じさせる古伊万里としようと思う・・・・・。
小鉢: そうですか、わかりました。(主人の所は貧庫なんだから、そういうことにしておいてやろうよと独白。)
主人: お前達を見ていて、思い出したことがあるぞ。
小鉢: どんなことですか。
主人: お前達のことは5年ほど前に或る競り市で買ったんだ。お前達には古い箱が付いていて、箱の蓋の表面と側面とには、「六角形外紅梅 内水仙菊模様 酢合皿 ○拾人前 弐箱ノ内」と墨書され、中には7個入っていた。つまり、六角形に成形され、外側には紅梅文が描かれ、内側には水仙文と菊文が描かれている酢の物用の皿だというんだね。墨書きをした以前の所有者は、お前達を「皿」と見たようだね。お前達を「皿」と見るか「鉢」と見るかはいわゆる見解の相違というやつだろうけれど、私個人としては「皿」よりは「鉢」のほうがふさわしいのではないかと思っている。それはともかく、箱と中身は一致しているな~と思ったわけだ。箱と中身が一致している場合は少ないので、これは良い参考資料になるな~と思い、是非競り落としたいものだと思ったんだ。
また、その時は、「○拾人前 弐箱ノ内」の「○」を「弐」と読み間違えて「弐拾人前 弐箱ノ内」と読んだものだから、「これは元々は二十人前二十個あったもので、それを二箱に分け各箱に十個ずつ入れたんだろう。この箱にも元は十個入っていたが、三個は破損してしまい、今は七個が残ったのだろう。箱の大きさとしても、ちょうど十個が入る大きさだし。」と考えたものだから、「数」としても合っているな~と思ったんだ。それで、ますます競り落としたい気になり、頑張って競り落としたわけさ。
小鉢: それはよかったですね。
主人: そこまではよかったんだがね~~~。家に帰ってから、箱に墨書された文字をよ~く見たら、「○拾人前 弐箱ノ内」の「○」は「弐」ではなく「斗」であることがわかった。でもね~、「斗拾人前 弐箱ノ内」ではね~、なんのことなのかサッパリ意味がわかんないよね~、全く(><) 最初は誤字かな~と思ったんだが、箱の蓋の表面と側面の二ヶ所に書いてあるんだものね~。誤字でもなさそうだしね~。それで、ちょっとガッカリして元気をなくしてしまったね。
小鉢: それで、私達を見るのもいやになり、すぐ押入れに入れ、そのまゝにしてしまったんですか。
主人: いや、それほどに落胆はしなかったよ。だって、どう考えても、私が類推した、「全体で二十人前で、それを十人前毎に二箱に分けたもので、これはその二箱の内の一箱である。」という基本的な考えには、大きな間違いはないと思ったからね。
小鉢: それでどうしたんですか。
主人: ちょっと辞書で調べてみた。「斗」には「小さいさま」とか「わずかなさま」というような意味もあるんだね。そうであれば、「斗拾人前」というのは、「全体から拾人前分だけ取り出して小分けしたもの」というような意味に読めるんじゃないの。だとすれば、「斗拾人前 弐箱ノ内」というのは、「全体から拾人前ごとに小分けして箱に入れた。その箱は二つになったが、この箱はその二つの箱の内の一つである」となるよね。結局、この場合は、本当は「斗拾人前 弐箱ノ内」と書いてあるのを「弐拾人前 弐箱ノ内」と読み間違えても「数」の点では間違ってはいなかったということになるよね。それがわかって、安心し、元気が出てきたよ。
小鉢: そうですか。でも、その解釈は、そもそも間違っているかもしれませんよ。
主人: おいおい、またガッカリさせるつもりか。せっかく安心したんだから、そのままにしてくれよ。
小鉢: ところで、私達の名称はどのように表記すればいいんですか。箱の墨書では「六角形外紅梅 内水仙菊模様 酢合皿」となっていますが。
主人: 名称の付け方については特にきまりはないね。要は、その物の特徴をよく表していればいいわけだよ。箱の墨書は、なかなかお前達の特徴をよく表しているとは思うね。でも、普通、「外側の文様は紅梅で内側の文様は水仙と菊」というように、内側と外側の文様の両方を表記することは珍しいんじゃないかな。そのように表記すると長ったらしくなってしまうものね。
普通、皿や鉢の場合は、見込み部分というか内側部分というか、そこの部分だけに描かれた文様の代表的なものを取り出して表記するんじゃないかな。それで、私は、お前達の名称を「水仙菊文六角形小鉢」としてみたんだ。
小鉢: そんなものですか。それにしても、ずいぶんと短くなりましたね。
主人: 今日は、とりとめのない雑談になってしまったね。春を待ちわびる老人につきあってくれてありがとう。
追 記 (平成28年2月1日)
この記事をアップしてから間もなく、或るお茶をされている方から、次のようなアドバイスをいただきました。
「斗」の字は、お茶で、「炭斗(すみとり)」に使います。「炭取り」と書かないのは、「斗」には「はかる」という意味があるからだと昔聞いたことがあります。
それで、さっそく、ネットで調べてみましたら、
炭斗(炭取り、炭取)
炭俵から小出しにした炭を入れておく器。すみかご。すみいれ。 (大辞林)
とありました。
やはり、私が想像しましたように、「斗拾人前」という意味は、「全体から拾人前分だけ取り出して小分けしたもの」というような意味の解釈でよかったんだな~と思い、安心しました(*^_^*)
貴重なアドバイスをしてくれましたお茶をされている方に改めて御礼申し上げます。ありがとうございました(*^_^*)
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