「死亡の塔」韓国版を見る機会に恵まれました。ブルース・リーがこの世から去ってから、本家・香港のゴールデンハーベスト社によって製作されたいわくつきの「主演作品」であることは周知の事実ですが、日本で公開されたいわゆる”国際版”とは異なり”韓国版”なるものが存在し、その主演は「死亡の塔」の前半部分や「死亡遊戯」でブルースの”代役”として出演していたタン・ロン・・・韓国のアクション俳優です。
「死亡の塔」は、「燃えよドラゴン」のNGフィルムを使用するため、同じような背景・スタジオセット・衣装などが用意されました。例えば国際版の冒頭。親友であるチン・クーを訪ねるシーンでは「燃えよドラゴン」のブルース(左)を流用するために、タン・ロンは同じ色の中国服を着用し、顔は見えないように後ろから撮っています(右)。
しかし、やはりブルース不在による無理困難が募ったためか、製作途中でストーリーの変更が余儀なくされ、ブルースは劇中前半でヘリコプターから落下して死亡、後半は代役だったタン・ロンが”弟”として登場し、しっかりと顔まで映ることになったゆえに、ブルースが多く映っているであろう「燃えよドラゴン」NGフィルムの流用を断念したのではないかと推測されます。
韓国人俳優のタン・ロンが出演し、ロケも韓国で行われている関係もあるでしょう。どこからともなく韓国版を作ろうと話が噴出。ストーリーの変更を良しとしたスタッフが「だったらタン・ロンを主演にしちゃえ!」と編集しなおして作られたのだと思います(ゴールデンハーベスト側もしぶしぶ・・・かどうかはわかりません。もしかしたら「それは面白い!映画が売れればいい!」との思惑もあったかもしれません。韓国版のスタッフロールには香港・韓国双方のスタッフの名前が記されています)。
おかげで「燃えよドラゴン」流用シーン使用のために作られたセットや衣装が、韓国版では生かされています。簡単に言えば「燃えよドラゴン」をパクったシーンとも言えるわけです(笑)。さらには国際版ではカットされたタン・ロンのヌンチャク使用シーンが見られます(とはいえ、”持っただけ”ですがw)。
相手がヌンチャクを持って出てくる。
腰の後ろからヌンチャクを取り出して構えるタン・ロン。
それを相手に投げつけて・・・ヌンチャクシーンは終わってしまった(笑)。 本来ならば、ヌンチャクを構えてから投げつける間に、本家「燃えよドラゴン」のブルースによるヌンチャクアクションが挟み込まれていたのでしょうね。
国際版ではカットされていた”ブルースが新聞を読む”超アップのカット。韓国版でタン・ロンが主演となったために生かされたと思われます。
ストーリーの変更や変な編集によって、国際版では「よくわからない存在」だった通称・Gジャン男。演ずるは日本人俳優の加藤大樹。韓国版ではタン・ロンが兄貴分と慕う間柄と明確な説明もされ、きちんとした登場人物として描かれています。
しかも、国際版ではブルース(タン・ロンが代役)がヘリコプターから落とされているのに、韓国版では加藤が落とされて死亡・・・あれ?ということはこの2枚のように加藤がヘリを追いかけて、そして落ちる瞬間のシーンと、タン・ロンがヘリを追いかけて、落ちる瞬間のシーンは同時に撮影されていたのか?それともストーリーが変更されてから撮り直したのか・・・?
突っ込みどころ満載、分析するのが楽しい「死亡の塔」。ブルース映画ファンとしては永遠に気になる、パラレル・ワールド作品ですね