ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

裁き

2017-07-06 23:33:48 | さ行

まさに新世代のインド映画!


「裁き」71点★★★★


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インド、ムンバイ。

屋外イベントで歌を歌っていた
65歳の民謡歌手カンブレ(ヴィーラー・サーティダル)が
突然逮捕される。

罪状は
「お前の扇動的な歌を聞いて、下水清掃人が自殺をした」というもの。

なんとも不条理な罪状で被告人となったカンブレを
若手弁護士(ヴィヴェーク・ゴーンバル)が
弁護することになるが――?!


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1987年生まれの監督による
新世代のインド映画。


歌って踊って、上映時間は3時間超!みたいな
ボリウッドとはまったく違う映画で
びっくりしました。


65歳の民謡歌手が
「お前が歌った歌を聴いて、下水道清掃員の男が自殺をした」という罪で逮捕される。

不条理な訴えに、正義の弁護人が燃える……!的な展開を想像すると
これがまったく違っていて、そこがおもしろい。

弁護士は出てくるけどね。


まず老歌手の裁判が始まり、
インドの“流れ作業”的な
法廷のざっぱな感じに驚きます。


次回の公判日が言い渡されると
その弁護士がちょっと高級っぽいスーパーで買い物をするシーンになる。
え?何だろ?(笑)

で、その彼が実家に顔を出し、
母親に「仕事ばっかりで・・・恋人はいないの?」と聞かれて癇癪を起こしたり
(わかる、わかる。笑)
まるきり、日常な私生活が描かれる。

そして次回の法廷になり
女性検察官が老歌手に対し
「反社会的、扇動的な劇を禁じる劇条例に違反した」と、罪状をあげる。

これは、まさに共謀罪!


でもその法廷シーンが終わると
今度は検察官の、妻として母親としての私生活が描かれる。

ここで、さすがにわかった。

この映画はインドの人々の暮らしを描き、
そこにある感情や
暗なる差別や階級を露わにしようとしてるのだ、と。


クライマックスで「自殺した」とされる
下水道清掃員の妻が証言台に立つんですね。

で、その仕事がどれだけ過酷だったがが明らかになる。

でも彼女も、映画も、どこか淡々としている。
そして妻は言う。
「誰も顧みなかったでしょ?知ってて、知らんぷりしてたでしょ?」

こうして、見る人の心に矢が刺さるんですね。

人物の内面描写など何もせず、
しかし、その行動から、心を浮かび上がらせる。

これすごくおもしろい方法だと思います。

我が国でも現実となった
「共謀罪」の影を見ずにはいられないしね。

しかし、現実の不毛さで終わり、じゃない。
このラストも、うまいです。


★7/8(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「裁き」公式サイト

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