ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ラジオ・コバニ

2018-05-09 23:09:17 | ら行

 

明るい兆しと、現実と。

これも良ドキュメンタリー!

 

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「ラジオ・コバニ」73点★★★★

 

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2014年にISに占領され

15年、激しい戦闘の末に解放されたシリア北部の街・コバニで

私設のラジオ局を立ち上げる女子大生ディロバンを追うドキュメンタリー。

 

監督は自身もクルド人であり

オランダに移住したラベー・ドスキー。

(1975年生まれなので、ワシより若いのだ!しかし熟練の香り…ww)

 

そんな彼が、偶然耳にしたラジオでディロバンを知り、

“一目ぼれ”して作り始めた作品なんだそうです。

 

瓦礫だらけのコバニの街で

急ごしらえのラジオ局を作り、放送を始めるディロバンは

 

人々を励ます音楽を流し

難民キャンプに暮らす人々の苦境をインタビューして伝える。

 

その姿勢は完全にジャーナリストであり力強く、凜として美しいんです。

 

さらに監督はディロバンに

「まだ見ぬ我が子に語りかける手紙を書いて」と宿題を出し、

彼女が書いたその手紙がモノローグとして映画全体を貫いている。

 

彼女の言葉は、シンプルで率直で

それがまたこちらの情感を揺さぶるんですねえ。

 

 

復興の息吹がみえることで

銃撃や破壊や悲惨が多いシリアドキュメンタリーのなかでも

この映画には、青空のような、明るい兆しがある。

 

 

でも、だからこそ

瓦礫のなかから掘り出される遺体の生々しさや

ドローンが写す破壊されつくした街の痛々しさが、胸に焼き付きもする。

 

ISとクルド人兵士たちの真剣な戦闘シーンが

なぜか「戦争ごっこ」に見えてしまうのは

彼らが完全に統率や訓練をされていない、いわば素人兵士たちだからなのだと思う。

 

だからこそ彼らが「ふつうの若者」なんだと改めて思うし

そもそも、なぜ、こんなに武器があるのか?! それがいけないんじゃないか?

そのことへの怒りと疑問がふつふつと湧いてきました。

 

それにね

一面、瓦礫の街からの復興の様子は、状況は全然違っても

どうしたって我々に東日本大震災を思い出させると思うんです。

 

ラジオ局が活躍するという点もシンクロしてしまう。

そこにもグッと感じいりました。

 

発売中のAERAで、本作と「ラッカは静かに虐殺されている」(公開中)「カーキ色の記憶」を紹介し

そこから見えてくるものを考える記事を書きました。

ぜひ映画と併せてご一読いただければ!

 

★5/12(土)からアップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「ラジオ・コバニ」公式サイト


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