ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ダブリンの時計職人

2014-03-22 23:44:10 | た行

“ほっこり系”とはまるで違うけど
鼻ツン、としつつ、でもホワッとした温かみ。


「ダブリンの時計職人」71点★★★★


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イギリスで失業し
故郷ダブリンに戻ってきた50代半ばのフレッド(コルム・ミーニイ)。

住む家もない彼は
駐車場に停めた車のなかで暮らし始める。

ある日、駐車場に
同じように車で寝泊まりする
青年カハル(コリン・モーガン)がやってくる。

隣人になった二人は
次第に交流を始めるが――?!

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ラストの展開の予測はつくけれど、
途中の登場人物たちの行動には「え?」と気持ちよく裏切られたりする。

どうにも不思議で、でも
胸にジワジワ染み入る、なかなかの珠玉作でした。


監督はドキュメンタリー出身で、
実際にアイルランドの失業状況や、
フレッドのようなホームレスの取材をたくさんしているそう。

だからでしょうか
想像したような“ほっこり”系とはちょっと違って
ツン、と鼻にくる痛みもあり、
それでも、やっぱり、ホワッとした温かみもある。


主人公は人生半ばにして道を見失ったフレッド。

駐車場に停めた車のなかで生活する彼は、
失意の底にあっても

歯を磨き、掃除をし、車に置いた植物に水をやり
規則正しい日々のリズムを見出すことはない。

好感が持てますねえ。


そのうち、駐車場に
ご同輩といえる車上生活者のカハルが表れる。

ドラッグをやったり、ヤバい奴らと付き合いはあるんで
ヒヤヒヤするんですが
これがなかなかいいヤツで

孤独だったフレッドが
カハルとの交流や、ある女性との出会いで、少しずつ変化していく――という話。


状況説明はほとんどなくとも
日常描写から登場人物の人となりを伺わせるのが巧く、

繊細な光の使い方や
クローズアップ多めの図も
けっこう、心を揺らしてくる。

「人生に迷うことは恥ではない」とか
「葉っぱが木から落ちる瞬間を見たことある?そりゃあ美しいんだよ」とか
スッと響く美ゼリフも多く

フレッドの境遇といい
このご時世、他人事ではない題材としても染み入りました。


ただ、なんというか、
カハルのキャラも、ドラッグディーラーたちの描写も、
提示される映画的な要素がわかりやすいところとか
(メタファーとか)

どうも素朴というか、世慣れていないというか
不思議な印象が残ったんですが


そんな「不思議」に、答えを出してくださったのが
アイルランド文学研究者で早稲田大学教授の栩木伸明さん。

アイルランドの成り立ちや、状況を教えていただくと
これらの不思議の秘密が「なるほど~!」と理解できました。

3/25(火)発売の週刊朝日「ツウの一見」にご登場いただくので
ぜひ、映画と合わせてご覧くださいませ。

さらに
栩木さんのお話を、トークショーでも聞くことができます。
3/26(水)渋谷アップリンク「アイルランド・ナイト」

ワシも聞き手として登壇いたしますので(タハハ。笑)
ご興味ある方は、ぜひご参加ください!


★3/29(土)から新宿K'cinema、渋谷アップリンクほか全国順次公開。

「ダブリンの時計職人」公式サイト

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