ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

トム・オブ・フィンランド

2019-08-04 23:55:48 | た行

フレディ・マーキュリーらに

多大な影響を与えた画家がいたんです。

 

「トム・オブ・フィンランド」70点★★★★

 

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第二次対戦下のフィンランド。

戦地に赴くトウコ(ペッカ・ストラング)は

死と隣合わせななかで

軍服姿の兵士たちの姿に、密かに胸をときめかせていた。

 

戦争が終わり、家に帰ったトウコは

妹(ジェシカ・グラボウスキ―)に優しく迎え入れられ、

妹の紹介で広告会社で絵を描く仕事を得る。

 

当時のフィンランドで同性愛は法律で禁止されていたため

トウコは自分がゲイだと妹にも話せず、

夜の公園に行っては

取り締まりにおびえながら、相手を見つけていた。

 

そしてトウコは自分の内面を発散させるため

こっそりと男たちの絵を描き始める。

 

そして、1957年。アメリカの雑誌に送ったその絵が

表紙を飾ったことで

トウコの運命は大きく動き出し――?!

 

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同性愛が厳罰だった時代に

天才的な絵のセンスで自身のイマジネーション世界を描き、

しかし名を明かすことがなかなかできなかった

実在の画家の半生を描いた作品です。

 

彼の絵は

フレディ・マーキュリーや、デザイナーで映画監督のトム・フォード、

写真家ロバート・メイプルソープなどに

多大なインスピレーションを与えたそうで

なるほど、絵を見ると改めて

その影響力の大きさに、納得してしまう。

 

なにより、同性愛の情報が少なかった時代に

その絵は「自分だけじゃない」というメッセージになり

世界あらゆるところにいた

孤独な少年たちの力になったんだな、と思う。

 

 

映画はすごく誠実に作ってあって

過激な性描写などもなく

抑制を効かせつつ、しかも主人公の内面に迫っている。

 

トウコ役のペッカ・ストラングも

フィンランド版カンバーバッチ系というか

端整で繊細なキャラでいいし

しかも、本人にけっこう似ている!

 

 

劇中に、戦争下での経験、

特に

敵兵であるソ連の若者をナイフで刺した瞬間が何度も繰り返されて

そうした身体の感覚、

自身の性的感覚などを思い出しながら、それを昇華させ、絵を描くアーティストの高みを

うまく表しているなあと感じました。

 

そして彼の絵をいま、フィンランド政府が切手にも使用していることにも

見習うべき!と思うしね。

 

 

ただ

彼の絵が好きかどうかは

観客にも分かれるところかもしれない(笑)。

それはしょうがないですね。やっぱアートだから。

 

 

自分のセンスや好みは、当然あっていい。

でも、それと違ったものを好む人や、違う意見を持つ人を

排除したり、嫌悪してはならないのです。

 

 

監督のドメ・カルコスキ氏は

1976年キプロス共和国生まれで、5歳でフィンランドに移住した方。

「トルーキン 旅のはじまり」(8/30公開)も控えておりますので

注目です。

 

★8/2(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「トム・オブ・フィンランド」公式サイト


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