はっとして目覚めた
さっきまで 私一人シェフ一人だけの男同士の気安さで
すっかり気持ちが緩んでしまって
店のカウンター席で眠ってしまったようだ
この店にたどり着くまであっちこっち酒場を漂流して
結構な量のアルコールを摂取していた
「うっん?」
若いシェフの視線があらぬ方を向いているのに気づいて
その視線を追うと
さっきまで居なかった若い女性が
目覚めた私に向かって
不敵に笑って手を振っていた
不思議な雰囲気をもった美女だ
「すごい鼾でしたよ」とシェフも笑っている
きっと大口をあけてだらしなく眠っていたのだろう
あわてて涎のチェック
大丈夫のようだ
携帯を取り出して時間を確認すると
午前0時を少しまわっている
こんな時間に若い女性が独りで・・・
きっとシェフの恋人なのだろうと一人合点
なんとか大人の威厳を取り戻せねばと 言葉を捜したが
酔って寝ぼけた頭では無理だ
替わりに 「ワインをご馳走しようか」と話を向けた
「いえ・・・」と軽く断られてしまった
当然だろうね
でも 微笑む美女の雰囲気は悪くない
「この女性はシェフの彼女なんだろうけど
その若さで 彼女に太刀打ちできてる?」
「もし俺がシェフの歳だったら言葉も交わせそうもない」と
シェフに失礼千万な水をむけた(シェフはただ笑っている)
まんざら嘘ではない 若い頃は結構気弱だった(今も)
件の美女は
この会話が功を奏したのか
「ワインを一杯ご馳走になろうかな」と
私の傍に席を移ってきた
乾杯!!!