爺様の終戦

竹之内豊の主演の映画　太平洋の奇跡
(フォックスと呼ばれた男)
という 戦争映画が２月１１日に公開されたが
その直前
私の田舎の最長老が
９４歳の天寿をまっとうした
これが爺様の終戦といえるのだろう

わが村唯一のキリスト教徒の爺様は
身なりも 家にも頓着なしで ただ 郷土史の研究と

信仰だけを生きがいにしていた
そんな彼が
婆さまと教会の勧めで結婚したのは
互いに６０歳を過ぎてからだったのだが
実に仲むつまじい夫婦にみえた
なぜ　それまで結婚しようとしなかったのかは
教会での葬儀の際に配られた小冊子に載っていた
彼の随筆で知った
第二次世界大戦で満州に従軍していた彼は
敵の砲撃にあって砲弾が彼のそばで炸裂
肩に弾帯の破片が食い込んだ
その時 一人の戦友が
死を覚悟して倒れていた彼を助けてくれたという
彼は後方に送られ一命を取り留めたのだが
彼を助けてくれた戦友は
彼を助けた次の日に戦死した
傷痍軍人として郷里にもどった彼は
キリスト教に改宗
彼の代わりに死んだ戦友への祈りを欠かさず
一人身で生きる決心をしたのだ
彼は還暦で一区切りをつけ結婚したが
伴侶の婆さま共々清貧と祈りの生涯つらぬいた

すぐ隣に住みながら
私の父母はもちろん 村人の誰も知らない話しだった