「8月27日」というタイトルの自費出版本がある。著者は金沢市の重田重守(しげた・しげもり)さん、73歳。石川県教育文化財団理事長として、「自分史同好会」を長らく主宰してこられた。自分の歩んできた人生を振り返り、手記にしようという集いである。しかし、「8月27日」は自分史ではない。語られることのなかった地域史であり、日本史である。
終戦直後の1945年8月27日、旧満州(現在の中国東北部)に入植していた石川県出身の開拓団の人々350人余りが「集団自決」を遂げた。終戦の混乱の中、入植者は学校に集められ火が放たれた。熱さに耐え切れずに井戸に飛び込んだ親子もいた。「集団自決」とされた事件は本当に自決だったのか、重田さんは生き残りの日本人のほか、中国で現地調査を重ね、中国人からの証言も丹念に拾い集めた。そして一つの証言を得る。それは「自決」というより、錯乱状態で一部の指導者が「もはやこれまで」と火を放った集団焼死であった。実際、死亡したのは母親や15歳未満の子供たちが多かった。また、同じ地域の出身者が多かっただけに、生還者はこれまで真相について語ることはなかった。取材は10年にも及び、わずかな証言を一つひとつ積み上げて生還者に問い、それをまた積み上げていくという手法で一冊の本にした。
この本の正式タイトルは「旧満州 白山郷開拓団 8月27日」(北國新聞社刊)。先月、全国新聞社出版協議会が主催する「第1回ふるさと自費出版大賞」の優秀賞に選ばれた。そして、重田さんといっしょに旧満州に出かけ、現地でともに取材した北陸朝日放送の番組「大地の記憶~集団自決、57年目の証言~」は第39回ギャラクシー賞奨励賞を受賞した。この番組は、8月11日(木)午後4時からCS放送「朝日ニュースター」で放送される。
戦後60年のいま、死ぬ必要がなかった人までも犠牲にした戦争の真実の一端が語られている。
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