通勤時間に大勢のリクルート姿の若い人たちとすれ違います。
去年引っ越した自宅の近くに、銀行の研修施設があって、新人研修が行われているようなのです。
それぞれに大きな夢をいだいているのだろうか、あるいは大きな屈託を抱えているのかもしれないなどと思いながら、若い人たちを眺めていました。
今年大学3年生になった双子の娘たちが、東京でのインターンの話などをしているので、研修所に向かう彼らの姿は他人事ではないのです。
面接の終わりしビルは夕あかり
一日(ひとひ)で決まる一生(ひとよ)はなけれど
(吉川宏志『青蝉』)
大事な面接とはいいながら、たった一日で人生が決まってしまうものでもないだろうと、突き放して考えようとする若者の姿です。同時にこの歌は、一日が一生であったような眩しい世界との訣別をも感じさせます。そんな眩しい世界を詠った歌を、想起させるからです。
観覧車回れよ回れ想い出は
君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)
(栗木京子『水惑星』)
娘たちには、リクルートスーツで身も心も固めてしまう前に、栗木の歌の「一生」のような得難い経験を重ねてもらいたいと思います。楽しいことばかりではないだろうけれども、そうやって魂を鍛えていてほしいと。
そして誠に情けないことを白状すると、娘たちと旅行ができるのは、あと何回だろうと思ってしまう切ない男親の気持ちも、栗木の歌に重ねてしまうのです。