福岡県広川町には見事なイチョウ林があって、黄葉の時期は「太原(たいばる)のイチョウ」と呼ばれ多くの見物客で賑わっています。当ブログでもこの場所の黄葉の美しさを紹介したこともあり、イチョウの木について私なりに調べてみるきっかけにもなった場所です。
仕事先の近くにこの林があるので、久しぶりにイチョウの冬木立に会いに行きました。
このイチョウ林は延々と続くブドウ畑のなかに忽然と姿を現します。ブドウ農園を営む丸山元運さんが、1998年に妻スナエさんを病気で亡くしたのをきっかけに、ブドウ畑の一部をイチョウに植え替えたものなのだそうです。
夫婦で紅葉狩りをするのが楽しみだった丸山さんが、奥さんの思い出にと、高さ30〜40センチだった苗木を丹精込めて育て、今の姿にまで大きくしました。
一昨年の秋、仕事帰りに訪れたとき、イチョウの生育状況が悪く十分に葉も付かない状況だったので、一般見学は禁止されていました。ああ綺麗だと林に踏み込んだ私の足が、木の根を傷つけていたのかもしれないと思うと、胸が痛みました。ずいぶん心配しましたが、昨年には無事に元気を取り戻したのだそうです。
茶の木が老化して、肥料の栄養を吸収しきれなくなったとき、一斉に花を咲き揃えるという話を前回ここに書きました。イチョウの葉は夏のあいだ太陽の光を十分に吸収しきって、その役割を終えたときに、花を咲かせるように黄金色に輝くのでしょう。
そして、このイチョウの木そのものが、奥さんとの思い出を蘇らせようと、丸山さんが咲かせた花なのだと思います。
老木が渾身の力を込めて咲かせる花は、人を圧倒するように美しいけれども、同時に傷つきやすいものだということを改めて思いました。
仕事柄、老後の生活について相談を受ける機会が多いのですが、最近とみに思うのが、「お上」は老木のあだ花など見向きもしない、むしろ花などなかったことにしたいと考えているようだということです。老木は枯れるにまかせて、早く栄養を若木に振り向けよと迫りもするのです。
私は、せめてご縁のあった人の花を咲かせて、決して踏み荒らすことのない番人になりたい、そういう仕事をしたいと思います。