久しぶりに休日に家族全員がそろったので、柳川の雛祭り「さげもんめぐり」に行ってきました。
「水落ち」といって、城堀や掘割の水を堰き止めて、水路の清掃や設備補修を行う時期に当たり、名物の川下りこそなかったのですが、その分、人ごみに煩わされることもなく町の風情を楽しむことができました。
白秋生家記念館の斜向かいにある、「北原せんべい」に立ち寄り、川下りせんべいを買いました。八十八歳のおばあちゃんが焼くせんべいは、ふくよかな甘さがあって、柳川を訪れると必ずお土産にします。おばあちゃんが元気で働いているのを見るのも、わが家の柳川観光の楽しみのひとつです。店内には、せんべいの包装紙を器用に切り貼りした川下り舟が飾ってあり、娘たちへの「どれでも好きなものを持ってお行き」というお言葉に甘えて、一隻をお土産にしました。
北原せんべいに程近い古民家北島では、雛祭りの時期になると、自宅三間をすべて雛人形で飾り付け、一般に公開しています。亡くなったご主人のご意向を受けて、ずっと続けておられるそうで、飾りつけには一カ月を要するのだそうです。
奥様が、訪れる人すべてに「よくお越しくださいました、ゆっくり見てやってください」と声をかけるのも、例年と変わらない温かなおもてなしです。
歩き疲れた様子の妻や子供たちに、ここだけは最後に寄らせてほしいと言って訪問したのが、武家屋敷の「旧戸島家住宅」です。柳川藩中老の隠居宅がのちに藩主立花家に献上されたもので、現在は柳川市に寄贈され解体修理のあと一般公開されるようになったものです。
茶室は竹柱、三日月の竹下地窓など、竹林七賢人へのあこがれが伺われる、文人趣味の造りです。娘たちを床柱の前に座らせて、訪れるたびに定点観測のように写真を撮ってきたのですが、社会人になる彼女らが、小旅行に付き合ってカメラの前に座るのも、これが最後かもしれないなどと考えました。
帰り際に受付の女性から声を掛けられました。
「日が傾いてまいりましたので、お寒くはないかと案じておりました。どうぞお気をつけてお帰りください」
これほど心のこもった言葉を、ごく自然にかけてもらうと、驚きとともに深い感動を覚えます。
北原白秋の詩『ひとつのことば』の一節にこうあります。
ひとつのことばは それぞれに
ひとつの心を持っている
やさしいことばは やさしい心
きれいなことばは きれいな心
やさしい言葉、きれいな言葉に出会う旅でした。