今年の漢文講座も、動物に関してで、鹿・兎・熊・狐などが登場しました。
いろいろな漢籍から引用されているのですが、おもしろいなぁ~と思うのは、『捜神記』『捜神後記』『述異記』などに書かれている人に化け欺こうとする話しです。
鹿も年をとると人の姿に変化出来るそうな。
『捜神記』に出てくる年老いた狐は、書生に化けて時の司空張華に論争を試みますが、張華が言葉に窮するほどの博学ぶりで、化け物か狐の変化ではないかと疑われ、結局正体がばれて殺されてしまいます。
狐の利口さも人間の知恵には勝てないんですねぇ~~。
一つ気になったのが、『史記』に出てきた「狡兎」です。この「狡兎」ですが、辞書によっては「ずるいウサギ」とか「ずるがしこいウサギ」と説明されています。
私はウサギに「ずるい・ずるがしこい」というイメージはなくて、「すばしこい」と訳したいなぁ~と思ったのですが・・・
家人にこの話をすると、「稲葉の素兎はずるいんじゃないのか?」と!(これは中国の影響?)
なかなかに鋭い!! 古事記を学んでいる私がそれを忘れていたなんて・・・
中国の現代語訳でも『成語用法大詞典』でも「狡猾的兔」とされているし、まぁ~ウサギは「ずるい」のかなぁ~と思っていたのですが、たまたま他のことを調べていて、「すばしこい」「すばやい」と訳してある書籍を目にしました。
『新総合図説改訂新版』東京書籍(高校の副教材として使用されているもの):
狡兎死して、良狗烹らる。(すばしこい兔が死ぬと、すぐれた猟犬は煮殺されてしまう。)
そして更にその数日後、今度は以前に受講したおりにお世話になった先生が出された参考書にも。
『漢文文型 訓読の語法』新典社
狡兎死して走狗烹られ、~~(すばやい兎が死ぬとよく走る猟犬は煮られ、~~)
なんとなんと、私と考えを同じくする方たちがいらっしゃった!
この時まで「狡」字について調べた文献は、『説文解字』(本義)・『経籍籑詁』(引伸義)・『説文通訓定声』・『康煕字典』など中国の書籍ばかりでした。
それで、「すばしこい」「すばやい」とする説は新しい傾向なのかなぁ~?と思って、じゃぁ、諸橋さんはどうなのかなと?
『大漢和』は残念ながら手元にはないので、友人からもらった『中国古典名言事典』(1972年)を引いてみました。
狡兎死走狗烹、~ (逃げ足の早い兎がつかまってしまうと、それを追って働いた犬はもう必要がないとして煮て食われてしまう。)
古くからこの説はあったんですねぇ~~。
更に更に、
『中国故事成語辞典』金岡照光編(2010.6。旧版1991年)
狡兎死して走狗烹らる (すばしこい兎をつかまえてしまうと、猟犬も必要がなくなり煮て食われてしまう)
『大字源』
狡兎三窟:すばしこいうさぎは~~
『字統』白川静(1999年)
狡:(略)狡兎・狡虫は敏捷で制しがたい獣をいうが、~~
さらに興味深いのが、
『角川漢和中辞典』貝塚茂樹・藤野岩友・小野忍(1980.1)
狡兎三窟:ずるいうさぎは~~
狡兎死走狗烹:悪賢くすばしっこいうさぎが~~
『漢和大辞典』学研
狡兎三窟:ずるいうさぎは~~
狡兎死走狗烹:すばしこいうさぎが~~
いろいろな辞書を見ていくと、なんとも面白いですねぇ~~~
『漢辞海』(2011.2.)はというと、
狡兎三窟:ずるがしこいウサギは~~
そして、この辞書の「兎」の項にはこんな言葉もありました。
兎走烏飛:月日のたつのが速いこと。注:「兎」は月、「烏」は日のたとえ。
ウサギはやっぱり足が速いでいいんですよ。
それにしても、漢文って面白いですねぇ~~。漢字一文字の解釈をめぐってこれだけ楽しめるんですから!
あぁ~~、もうこんな時間!食事をしなくっちゃ。