いかにも小説らしい設定の物語である。
米澤穂信「折れた竜骨」東京創元社 2010年刊
舞台は12世紀末の欧州、大英帝国の東に位置するソロン島という小さな島、そこの英明な領主暗殺を巡る謎解き物語である。ロビンフッドの時代といえばイメージしやすいだろうか。
その島をディーン人という、怪物(首をはねないかぎり、生き返る超人)集団が攻めてくるという状況で、迎え撃つ方も魔術を使う傭兵が活躍する。暗殺するのも魔術、それを征伐しようとするのは、宗教的な義勇団、といういかにも中世の物語だ。
主人公は暗殺される領主の娘であるが、その設定にも無理はなく、大活劇を展開する。とにあれ著者の並々ならぬ描写力で、この中世のミステリーは楽しく読み進める事ができるが、若干作り物というイメージがつきまとう。
謎解きの描写にページ数を割くあまり、ディーン人襲来場面があっさりしすぎているのが惜しい。ただこの300頁をこす長編を飽きさせずに読ませる筆力はさすがである。