カサドの夢を見た

 夢をみることがさほど多くない郷秋<Gauche>が久しぶりに夢をみた。そして朝まで鮮明にその内容を覚えていた。しかもその夢の登場人物がカサドとその奥方だったので、目を覚ました郷秋<Gauche>はしっかりと記憶に留めるために、その夢の隅から隅までをつぶさになぞった。それにしても、何ともたいそうな夢を見たものである。

 「カサド」と云われても、クラシック音楽のファン、しかもチェロのファン以外には馴染はないかも知れない。ガスパール・カサド(1897-1966)はスペイン・バルセロナに生まれた20世紀で最も優れたチェロ奏者の一人であり、チェロ曲を中心とした作曲家でもある。分業が進む前の、演奏家が作曲家も兼業していた最後の時代のチェリストである。

 彼の奥方は、御年七十代のクラシックファンなら知らない人はいない原智恵子である。智恵子は1937(昭和12)年の第3回ショパン・コンクールにおいて聴衆を熱狂させた、日本における国際派ピアニストに先駆けであり、またカサド晩年の公私を通してのパートナーである。Duo Cassadoとしての演奏は今もCDで聴くことができる。

 そんなカサド夫妻が、しがないチェロ愛好家である郷秋<Gauche>の夢に出て来るとは、「不遜な!」と憤る方も多いのではないかと思うが、見てしまった夢を消すわけにはいかないのでお許し頂きたい。夢の中身なぞ家族以外に話すものではないとは思うのだが、登場する人物が人物であるだけに紹介すると、ざっとこんなストーリーであった。

 映画「カサブランカ」に出てきそうな酒場にカサド夫妻がいるのを目敏く見つけた酔っぱらいの親爺が「一曲聴かせてくれないか」とカサドに話しかける。カサドは気安く引き受け智恵子と共にピアノに前に進み出て弾き始める(ピアノは「カサブランカ」のようなオンボロではなく、アップライトではあったがちゃんとした音で鳴っていた)。曲はファリャのスペイン民謡組曲のホタとナナだったような気が・・・。それまで賑やかな話し声と笑い声でいっぱいだった酒場が一瞬にして静まり返りカサドのチェロと智恵子のピアノの音だけが響き渡る。

 弾き終わった二人が拍手の中、自分たちの席に戻っていったのだが、そのテーブルがなんとビールを飲んでいた郷秋<Gauche>と連れのテーブルの隣。郷秋<Gauche>はすかさず(どこから出て来たのか知らないけれど、と云うところがやっぱり夢だな)カサドがペルレアと共演したシューマンのチェロ協奏曲のLPを差し出してサインをもらう。カサドと智恵子は何故か私がチェロを、連れがピアノを弾くことを知っている。智恵子と連れがピアノ談義に花を咲かせているその横で、カサドはバッハの無伴奏の(書き込みがたくさんある、多分彼自身愛用の)楽譜を広げて「この曲は指使いよくよく考えないと難しいのです」と、郷秋<Gauche>に教えてくれた。

 夢から覚めて、バッハの無伴奏が弾けるようになるのは随分先の事だろうなと思いながらも、「毎日練習すれば弾けるようになりますよ。がんばりなさい」とカサドが励ましに来てくれたのかも知れないないと、ここ3日程練習をさぼったことを反省した郷秋<Gauche>なのでありました。

追記:縁も所縁もないカサドが突然郷秋<Gauche>の夢に登場した訳では無く、実は1999年にこんなサイトを立ち上げ、カサドに関する情報の提供をしていた郷秋<Gauche>ではあるのです(ただし2007年以降放置状態)。そんな訳でカサドの作品もレコードもほとんど全て諳んじておりますので、まっ、夢に出て来ても不思議ではないのかも知れません。ひょっとすると「サイトの更新を再開せよ!」と云いに来たのかもしれませんね(^^;


 と云う訳で今日の一枚は、Duo Cassado(デュオ・カサド)の演奏を収めた数少ない国内盤LP(左)と、このLPのオリジナル音源である当時のソ連で出された10inchのLP(more info)。夢に出てきたカサド夫妻の召し物は、場末めいた酒場には不釣り合いな、まさにこのジャケット写真そのままのシックなものでした。ちなみにカサドのチェロのケースは、今流行りのカーボン製ではなく、以前にチェロを教えていただいていたヴァーツラフ・アダミーラ先生が使っていたのと同じ、木骨に布を張ったクラシックなもの(当たり前か)。うすぼんやりした部分がある一方で、妙に鮮明かつマニアックなところもあるから、夢ってやっぱり不思議だなぁ。

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