揺れる障害者福祉:自立支援法2年/1 授産施設利用にお金がなぜいるの? /和歌山
◇何が自立、不安だらけ--42歳の岡田さん
「一生懸命働いているのに、なぜお金を払わないといけないの?」。和歌山市の知的障害者通所授産施設「はぐるま共同作業所」を利用する岡田正雄さん(42)はこの2年間、思い続けている。
ほぼ毎日、朝5時に出勤して約6時間、パンを焼いて販売する。「仲間に会えるし、仕事も楽しい」と言うが、施設の利用料を払うことが強い疑問だ。
収入は月6万6000円の障害基礎年金と、月3万5000円の工賃(賃金)。支出はケアホームの家賃や生活費計約7万円のほかに、作業所利用料や給食費など計約1万3000円の負担が重くのしかかる。頼れる肉親はいない。「将来のための貯金もできず、1人の生活になるのが怖い」と不安を抱える。
県障害福祉課によると、県内の認可施設で障害者が受け取る平均工賃は月額1万2045円(06年度)。中には時給6円の施設もある。別の作業所に通う男性(23)は「利用料を取る前に、賃金保障をして」と訴える。
障害者自立支援法は、福祉サービス利用者に自己負担1割を求め、給食費などの実費負担を課した。低所得者には負担上限額があったものの、すぐに「生活していけない」と困窮の声が続出。国は上限額を4分の1に見直し、年収80万円以下の人の上限額は3750円になった。今年7月からは、さらにそこから2分の1に引き下げる。
だが、収入の少ない障害者にとっては1円の支出も深刻だ。岡田さんは言う。「お金だけとられて、その分の支援は何一つ受けられない。一体、何が自立なのか。不安だらけの毎日はもうたくさん。1日でも早く施行前の生活に戻してほしい」
× ×
障害者自立支援法施行から2年。「障害者の社会参加」の理念とは裏腹に、「自立」が見えない現状と将来に不安が広がっている。揺れる障害者福祉の今を現場から報告する。(この連載は清水有香が担当します)
==============
■ことば
◇障害者自立支援法
「施設から地域へ、福祉から就労へ」を理念に、障害者の地域社会での自立を目指す。身体、知的、精神に分かれていた障害者施策を一元化。福祉サービスの従来の利用者負担は収入に応じて決めたが、施設利用やヘルパー派遣などあらゆるサービス利用者に、利用料の1割の自己負担を原則とした。サービス支給決定の指標として、6段階で判定する「障害程度区分」を導入した。06年4月に利用料負担など一部施行、10月から完全施行。
毎日新聞 2008年4月15日 地方版
◇何が自立、不安だらけ--42歳の岡田さん
「一生懸命働いているのに、なぜお金を払わないといけないの?」。和歌山市の知的障害者通所授産施設「はぐるま共同作業所」を利用する岡田正雄さん(42)はこの2年間、思い続けている。
ほぼ毎日、朝5時に出勤して約6時間、パンを焼いて販売する。「仲間に会えるし、仕事も楽しい」と言うが、施設の利用料を払うことが強い疑問だ。
収入は月6万6000円の障害基礎年金と、月3万5000円の工賃(賃金)。支出はケアホームの家賃や生活費計約7万円のほかに、作業所利用料や給食費など計約1万3000円の負担が重くのしかかる。頼れる肉親はいない。「将来のための貯金もできず、1人の生活になるのが怖い」と不安を抱える。
県障害福祉課によると、県内の認可施設で障害者が受け取る平均工賃は月額1万2045円(06年度)。中には時給6円の施設もある。別の作業所に通う男性(23)は「利用料を取る前に、賃金保障をして」と訴える。
障害者自立支援法は、福祉サービス利用者に自己負担1割を求め、給食費などの実費負担を課した。低所得者には負担上限額があったものの、すぐに「生活していけない」と困窮の声が続出。国は上限額を4分の1に見直し、年収80万円以下の人の上限額は3750円になった。今年7月からは、さらにそこから2分の1に引き下げる。
だが、収入の少ない障害者にとっては1円の支出も深刻だ。岡田さんは言う。「お金だけとられて、その分の支援は何一つ受けられない。一体、何が自立なのか。不安だらけの毎日はもうたくさん。1日でも早く施行前の生活に戻してほしい」
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障害者自立支援法施行から2年。「障害者の社会参加」の理念とは裏腹に、「自立」が見えない現状と将来に不安が広がっている。揺れる障害者福祉の今を現場から報告する。(この連載は清水有香が担当します)
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■ことば
◇障害者自立支援法
「施設から地域へ、福祉から就労へ」を理念に、障害者の地域社会での自立を目指す。身体、知的、精神に分かれていた障害者施策を一元化。福祉サービスの従来の利用者負担は収入に応じて決めたが、施設利用やヘルパー派遣などあらゆるサービス利用者に、利用料の1割の自己負担を原則とした。サービス支給決定の指標として、6段階で判定する「障害程度区分」を導入した。06年4月に利用料負担など一部施行、10月から完全施行。
毎日新聞 2008年4月15日 地方版