神戸新聞社が兵庫県内41市町に行った福祉避難所の調査結果から、確保は必ずしも順調に進んでおらず、周知も徹底されていない現状が明らかになった。その中で、今回は積極的な取り組みを進めている明石市や播磨町などの事例を紹介する。(新開真理、貝原加奈)
明石市は、市立総合福祉センターの一角を福祉避難所として確保した。広さ約100平方メートルの畳敷きで、災害時には高齢者や障害者ら最大33人が避難できる。そこから徒歩20分の倉庫には、紙おむつなどを備蓄。昨年9月には福祉・介護用品の供給に関する協定も結んだ。
同市は調査に「9カ所を確保し、計410人が受け入れ可能」と回答した。約8割の自治体が確保目標を示さない中で、南海トラフ巨大地震の被害想定と、支援が必要な市民の名簿登録者数などから目標を500人と設定。「その8割を受け入れられる」とはじく。
だが、せっかくの計画は、どれほど伝わっているのだろうか。視覚障害がある市内の70代男性は「取材を受けて、市のホームページで、自宅近くに福祉避難所が新設されたことを初めて知った」と語る。
すし詰めの一般避難所でつえを使って人をよけ、トイレに行くことを想像するだけで不安になる。だからこそ福祉避難所の情報は自宅に郵送するなど、確実に届けてほしい。支援内容や備品についても知りたい。一方、「多くの障害者は関心が低い。人任せでは変わらない」とも思う。
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播磨町は昨夏、「災害時ケアプランの作成等に関する研究会」をスタートさせた。防災と福祉部門の職員らが参加。自力での避難が難しい人の「個別計画」作りを少しでも前進させようと検討を重ねる。
姫路市や小野市などは福祉避難所の開設・運営訓練を実施。明石市や豊岡市、宝塚市は協定を結んだ施設などと意見交換の場を設ける。福崎町は、福祉避難所として要件を満たす施設が地元に新設されるたび、協力の可否を調査している。災害で助かった命をつなぐ。住民の関心の高まりも期待される。
【急がれる個々のニーズ把握】
今回の調査結果から分かった課題を、福祉防災学が専門の立木茂雄・同志社大学教授に聞いた。
-福祉避難所を増やすため、多くの自治体で民間施設との協定締結が進む。
「東日本大震災で、事前に協定を結んでいた仙台市で受け入れが円滑だったことを受け、国は締結の働き掛けを強めている。施設側の職員の意識が高まり、費用負担の心配もなくなるというメリットはあるが、数合わせになっては意味がない。家族の有無や必要な支援など個々のニーズを把握し、積み上げて初めて実効性がある」
-福祉避難所を周知していない市町があった。
「深刻だ。自力での避難が難しい人の意思を確認し、行き先などを決めておく『個別計画』の策定は非常に遅れているので、全く情報が届かない恐れがある。混乱を避けたいのだろうが、仙台市のある福祉避難所は入り口に24時間“関守”を置き、来訪者に施設の性格を説明して理解を得ていた。一方、熊本地震では福祉避難所に一般の人らが押し掛け、高齢者が入れない例があった。周知しないで得られるメリットより、発生するデメリットの方が大きい」
-「確保目標なし」という回答が8割にも上った。
「各市町の戸惑いの表れでは。だが災害時でも合理的な配慮の提供を行政に義務付けた障害者差別解消法は施行されている。東日本では、宮城県での障害者の死亡率が突出していた。福祉が充実し在宅生活が進む一方、災害時の視点が欠けていたことが一因と思われる。福祉と防災の縦割り解消は急務だ」
-先進地の取り組みは。
「大分県別府市は市長が福祉・防災部局の連携を重視し、県社会福祉協議会の職員を市の危機管理部門の職員に採用した。住民と、地域社会との付き合いが薄い障害者をつなぐなど、実績を上げている」
2018/1/17 神戸新聞NEXT
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